トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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「急性骨髄性白血病」は、日本では1年間でおよそ4000~5000人が発症しています。骨髄系に分化した造血幹細胞(血液の源となる細胞)が腫瘍化したもの、とされます。顕微鏡で見た、その性質と形の特徴から「M0」から「M7」の8種類に分類されていましたが、最近では染色体異常による分類も加わり、約20種に分類されます。ただし、治療的には「M3」とされていた「t(15;17)転座」(15、17番染色体が一部切れ、互いに入れ替わる構造変化)を伴う「急性前骨髄球性白血病」と、それ以外に分けられます。

病気としては、骨髄の中で成長しない状態の白血病細胞=芽球(がきゅう)が多くなり、正常な白血球や赤血球、血小板を作りにくくなった状態です。病気の最初の段階では白血球が減少しているのですが、この段階ではあまり病院に来る患者さんはいません。骨髄で増えた芽球が、あふれて血液の中に流れ出した状態で、発熱などの症状も起き、病院に来ます。さらに、白血球数万マイクロリットル(=100万分の1リットル)となっている場合もあります。熱も高く、非常にしんどい状態になっています。

骨髄性白血病の中でも、成長=分化したタイプのほうが最終的には治りやすいのですが、成長した分だけ、白血球が細菌などと戦う武器である、炎症性物質や消化顆粒(かりゅう)を持つため、治療開始時に多量の炎症性物質を放出して、発熱や臓器障害、さらに凝固障害を引き起こします。ただでさえ少ない血小板も手伝って、脳出血、吐下血を発症してくる場合もあります。

播種(はしゅ)性血管内凝固障害と呼ぶ病態は、本当に対応が大変ですが、凝固系の治療薬が出てからいくらか対応がしやすくなりました。それでも神経は使います。

時折、ゆっくりと進行する患者さんもいますが、大体の場合は緊急事態です。入院手配、急いで骨髄穿刺(せんし)検査、そして染色体遺伝子検査を行います。輸血が必要なら手配し、肺炎などの感染症治療と予防、心機能、腎機能、肝機能、合併肝炎など「肝心要(かんじんかなめ)」と呼ばれるチェックを行います。そして、小出しにしてきた病状の説明を行い、親族を集め「どうやら、骨髄性の急性の白血病です。きちんと薬が使えれば治る可能性の比較的高い病気です」と、説明を始めます。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。