トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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「急性骨髄性白血病」において、最初に行う治療を「寛解導入療法」といいます。これは、だいたい2種類の薬の組み合わせで行われます。色付きの小さい点滴を3日間程度と24時間持続の透明な薬を7日間行う「3+7療法」が、世界共通の治療法です。

治療効果を上げるために、幾つかの薬の追加がされましたが、あまり芳しい結果はなく、この治療法に落ち着いた経緯があります。ここ数年くらいで、新しく追加する薬が出るようですが、まだわかりません。

この治療を行う際は、中心静脈カテーテルという、普通の点滴よりも長い管を首や肩の付け根などから入れて行いますが、ただでさえ血小板が少なく、血が止まりにくい人に刺すのは、危険が伴います。血液内科の腕の見せどころですが、わたしは「PICC」と呼ばれる、腕から入れる長いカテーテルを使ってます。腕の血管は細く、入れるのは大変ですが、その後の管理はこちらの方が楽です。

さて、治療を始めます-。最近は、吐き気止めなどが進歩したため、治療点滴=吐き気とは、あまりなりませんが、やはりだるさや頭の重苦しい感じ、何よりもここまでの流れで、患者さんはだいたい参っています。

しかし、大変なのはここから、です。抗白血病薬による白血病細胞の崩壊による症状、想定しない貧血、血小板減少、そして発熱、感染症の併発など、患者も主治医もそして看護師にも、つらい3~4週間が始まります。その間は、週3~4回採血をして経過観察はしますし、朝が来て患者さんに何らかの変化がないか、をチェックし、必要な対処を行うという日々です。

そして、数万マイクロリットル(=100万分の1リットル)あった白血球が、数百マイクロリットルまで落ち込んだ後、少し白血球が増えてきた時に「第2の緊張」が訪れます。正常な白血球と白血病の、どちらが立ち上がってくるのか?

そう、寛解導入療法は、格闘技でいう「ダブルノックダウン」状態なのです。「正常な白血球」が勝てば歓喜ですが、「敵(白血病)」が立ち上がってきたら、再治療(がっかり)です。中には立ち上がった方がどちらか、わかりづらい時もあり、緊張します。だいたいは「正義」が勝つのですが…。判明するまでは、緊張が続きます。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。