前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんの内分泌療法(ホルモン療法)が効かなくなってきたとき、試みるのが抗がん薬を使った「化学療法」です。病気の進行を抑えることができますが、出血や感染しやすい白血球減少、消化器障がいとしての食欲不振、脱毛などの副作用があります。

すなわち、がんの体積がある期間縮小し、PSA(前立腺特異抗原)が低下し、骨移転による痛みが取れることも少なくありません。

保険承認されている抗がん薬に、「ドセタキセル」と「カバジタキセル」があります。前者は、細胞分裂を邪魔することでがん細胞を死滅させるのです。使用法は、3週間ごとに1回の点滴投与です。多くはステロイド薬(副腎皮質ホルモン)を併用します。副作用として、骨髄抑制が生じて血中の好中球が減ったり、脱毛、全身の倦怠(けんたい)感、むくみなどがあります。

ドセタキセルは、内分泌療法で効果がなくなったり、前回説明した、去勢抵抗性が出てきている前立腺がんに対して使われます。

一方、後者は、細胞分裂を抑えることでがんの進行を抑える薬です。副作用には強い骨髄抑制、悪心(おしん=吐き気を催す)、嘔吐(おうと)、下痢などがあります。

前立腺がんの化学療法は、まず、他の療法を実施したにもかかわらず、がんが再発したり、去勢抵抗性が出てきたとき、ドセタキセルを使用。このドセタキセルが無効になった去勢抵抗性前立腺がんには、カバジタキセルを用います。

化学療法は他の治療法が使えなくなった場合の「最後のとりで」といえますが、最近は進行の速い前立腺がんには、早期から内分泌療法にドセタキセルを併用した場合の有効性が報告されています。また、去勢抵抗性前立腺がんに対する治療として、最近はともに新規の経口薬「エンザルタミド」と「アビラテロン」が使われます。エンザルタミドは、アンドロゲン受容体を阻害する薬で、ドセタキセルでの治療が終わった後に使用して効果が示されています。けいれん、血小板減少などの副作用があります。アビラテロンは、アンドロゲン合成を阻害する薬。副作用に心障がい、肝障がい、血圧上昇、むくみなどがあります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。