<それってうつ病?メンタルヘルスの現場から(10)>
うつ病とは何か。長年、うつ病治療に取り組んできた「なんば・ながたメンタルクリニック」(大阪市中央区)の永田利彦院長はこう話す。
「例えば、うつ病の人に対して励ますといけないのか、あるいは励ました方がいいのか、頑張れと言った方がいいのか、さまざまな意見がありますが、患者さんは1人1人違うので、その人に合わせたものが必要なのです」
前回紹介した「社交不安症」をはじめ、うつ病にはいろいろな障害が併存していることが少なくない。
「つまり、病気というよりもほとんどが生きづらさなのです。生きづらかったら死ぬことを選んでしまう。生きづらい人に対して、頑張れなんて言ったら、本当に死んでしまうかもしれません。だから私はこう言うんです。『よく頑張って生きてきたね』って」
クリニックにやってくるさまざまな生きづらさを抱えて生きてきた人たちに、永田院長はこう優しいまなざしを向けるのである。
「どういうふうに生きづらいのかを見分けることは、ものすごく難しいことです。なぜなら、どう生きづらいのかをちゃんと理解していないといけないから。でも、私はそれをやっている。とはいえ、時間をかけて聞いてあげないと分からないという場合は、いくら時間をかけても分からないもので、もしもその人の話を聞くだけであれば、医者でなくてもいいはずです。しかし、医者は治療をして、その人が変われるようにしなければいけません」
その人が何によって生きづらさを抱えているのか、それを探り当てる。
「当てて褒めまくるのです。それは、本当に経験が豊富な医者でないとできないことです」
心を病んでいる人たちへの接し方は、経験と知識と十分なトレーニングを積んではじめて可能になるという、専門性の高い分野である。画一化されたマニュアルというものは手がかりにはなるものの、個別化した対象への決め手にはなりえない。
「繰り返しますが、典型的なうつ病ではないからといって、決して軽症というわけではありません。ケース・バイ・ケースの治療が必要です」