エンジョイ健口ライフ<46>
総入れ歯を使っている患者さんで「会話をすると上の入れ歯が外れた」「くしゃみをしたら動いた」などという悩みを訴える方がいます。バネで歯に固定が得られる部分入れ歯と異なり、総入れ歯が口の中でおさまっている理由にはさまざまな要素が絡んでいます。
もっとも重要なのが、唾液による吸着です。物をつるす際に利用するゴムの吸盤は少しぬらすとしっかりくっつきますが、入れ歯もそれと同じ原理です。
いわゆる土手の部分である「歯ぐき」と入れ歯が唾液を介してフィットしていれば維持力(入れ歯が動かないように保持する力)が働きます。口が渇きやすいという患者さんは保湿剤などを取り入れましょう。
また、入れ歯の周りを取り囲む粘膜が、入れ歯の辺縁に弁のように働き封鎖されていることも大切です。縁の長さが足りないと、このシール効果が働かず外れます。土手の部分の高さがしっかりある場合と、低く平らに吸収された歯ぐきでは、高さがある方が有利です。
入れ歯を使用していく上で、周囲には筋肉が存在していることも忘れてはいけません。頬や舌の動きを邪魔しないような位置に人工の歯が並べられていれば、周りの筋肉が自然と入れ歯を安定した位置に押さえ込むよう働きます。
どの条件をクリアするにも、まずは歯科医師による「精密な型採り」が鍵を握ります。入れ歯がしっくりおさまる口の中を再現することができなければ、その後の製作に、いくら素晴らしい技術をもつ歯科技工士が携わっても水の泡になるからです。
緊張してこわばった顔つきのまま型採りに臨んでしまう患者さんも多いのですが、筋肉の動きが不自然なままの型が採れてしまいます。患者さんをリラックスした状態に導ける経験値というのも、歯科医師の技量になります。