奥歯の喪失を放置しない/歯学博士照山裕子

歯学博士照山裕子の100歳まで食べられる歯と口の話

「100歳まで食べられる歯と口の話」<48>

「人生100年時代」を実感するのは、やはり昔のテレビ番組を見返した時です。以前にもこのコラムで話題にしたことがあるのですが、「サザエさん」に出てくる磯野波平さんが54歳という設定であることは、特に時代の変化を大きく感じさせる要素です。サザエさんの新聞連載が始まったのが昭和20年代とのことですから、当時の男性として、波平さんはごくごく普通の風貌だったのでしょう。現代では美容に対する意識向上も進み、男女問わず外見を若々しく、エネルギッシュに見せようと努力する方が増えています。こうした内面の変化も健康寿命の延伸につながっている気がします。

職業柄、美容医療に携わる先生方とディスカッションする機会があるのですが、よく耳にするのが「顔の相談を受けても、そもそも歯がない方では対処が難しい」という話題です。

奥歯がなければ当然顔はたるみ、それによって筋肉のバランスが崩れます。前歯が欠けたり抜けたりした場合に歯科医院に相談に来られる方の場合、実は数年前から奥歯がすでになく、前の方に過剰な負担をかけていたという方も少なくありません。家の柱と同様、かみ合わせや顔のつくりの屋台骨は奥歯なのですが、見た目に気づかれない奥歯の存在は軽視されてしまう傾向にあります。

親知らずを除く上下左右の奥から2本の「大臼歯」には、食べ物を細かくすりつぶす大切な役割があります。歯ブラシが届きにくく、磨き残しが出やすい場所でもあるがゆえに、早期に失われることが多いというデータも出ています。

体は順応性が高いので、奥歯がなくてもどうにか食事をしようと働きます。歯がある場所だけが使われ、そこに付随する筋肉も発達するため、あるとき鏡を見たら顔の歪みが気になったという経緯です。食べ物を丸のみしてしまい、消化に悪い点も懸念すべき事項です。