歯学博士・照山裕子「口福のヒント」<9>
ちまたにさまざまな歯科記事があふれ、クリニック独自のSNSなども普及している現代では、実に情報が玉石混交といえます。「食後30分あけた歯みがき問題」はその最たるもので、想像以上に間違った認識で広まってしまいました。
小児期の歯科臨床・研究を専門とする「日本小児歯科学会」や、虫歯や歯周病の治療をはじめ天然歯を保存する(残す)ことを目的とした「日本歯科保存学会」、その他多くの学術団体がこの問題について声明を発表しています。公衆衛生や予防医学の観点から口腔(こうくう)の健康を守る目的で設立された「日本口腔衛生学会」の公式見解が非常に分かりやすかったので要点をご紹介します。
(1)「食後30分間、歯みがきを避ける」というのは正確さに欠ける表現、誤解を招くため訂正が必要である。適切な表現は「酸性飲食直後のブラッシングを避ける」であり、酸蝕(さんしょく)症に限定した注意事項である。
(2)「30分」という時間は主に試験管内で歯を溶かす実験に基づくものであり、日常臨床でこの時間が適切といえるかという点には議論の余地がある。今後慎重な検討が必要課題である。
(3)酸蝕症は成人期の問題であり、小児や未成年が営む通常の食生活には当てはまらない、よって虫歯予防としてのブラッシングは食後できるだけ早く行うことが依然として推奨される。
もともとは欧米において、酸性食品摂取後の歯みがきについての危険性が取り上げられた事例があり、日本にもその考えが入ってきたという説があります。人種によって歯の大きさや形、エナメル質の厚みも異なりますから、欧米で取り入れられている習慣をそのまま日本人に応用する考え方に懐疑的な研究者も多いです。
口腔ケアに注目が集まり、皆さんの意識が高まるのはとても良い風潮であるものの、誤った情報で歯を傷めない取捨選択も大切。信頼できる医療機関での相談が近道です。