歯学博士・照山裕子「口福のヒント」<11>
人生100年時代の今、高齢になってもスポーツを楽しむという日常は当たり前になってきました。60歳以上のシニアで最も行われている運動はウオーキングで、どの調査でも約半数以上が「習慣にしている」と答えています。女性の場合はヨガやストレッチといった屋内でのエクササイズが人気、ゴルフや筋トレは特に男性需要が高い趣味のようです。そしてこうした流行は、歯科診療の需要にも反映されています。
ホットヨガでめまいを起こし転倒、口唇裂傷や前歯を破損した症例は幾度も経験していますし、筋トレで食いしばり奥歯を割ってしまう患者さんというのも、比較的若い世代から見かけます。
どなたでも1度は耳にしたことがあるであろう「8020運動」とは、80歳で20本の歯が残っていればある程度満足な食生活が送れるという理論に基づいた指標です。全身の健康維持に運動は欠かせない習慣とはいえ、大切な歯を1本でも失うことがないよう十分留意して臨みたいものです。
日本を代表するプロゴルファー「尾崎3兄弟」の末弟、尾崎直道選手が試合中にマウスピース(学術的な正式名称はマウスガード)を使用し、まさかの失格になってしまったという2012年のニュースをご存じでしょうか。
ゴルフ競技においてマウスガードの装着自体は違反ではありません。スイングやパットの際に無意識に食いしばると、歯や顎関節に大きな負担がかかります。歯自体の擦り減りや亀裂の原因になるだけでなく、知覚過敏や顎(がく)関節症など、さまざまなトラブルにつながる可能性があるのです。
このためマウスガードは「歯や顎を守る」等の目的で使う前提なのですが、尾崎選手は「これを着けると飛距離が伸びる」といった発言をラウンド後にしてしまったことで、ゴルフ規則第14-3「人工の機器と異常な携帯品、携帯品の異常な使用」に抵触してしまったという事例でした。