歯学博士・照山裕子「口福のヒント」<29>
犬同様、猫の口腔(こうくう)内も弱アルカリ性です。このため若齢から歯周病にかかりやすい点も似ています。加えて、猫特有の疾患もあります。1つ目が、「Tooth Resorption(TR:歯の吸収)」と呼ばれる、歯自体が少しずつ溶かされてしまう現象です。
原因はまだ明らかになっていませんが、歯周病による慢性炎症や、かみ合わせによる力のストレス、栄養の問題などが複合的に絡み合って起きていると考えられています。そして原因が定かでない以上、治療法も確立されていません。
人間の歯が溶かされる虫歯は表面から進みますが、TRは外側と内側の両方から進行します。このため、詰め物やコーティングも効果がありません。歯が薄く欠ける、内部の神経が透けてピンク色に見えるといった特徴があり、歯頸部(けいぶ)(歯と歯ぐきの境目)や奥歯に好発します。放置すると歯根だけが残り、強い痛みによる食欲不振を招きます。どこか1カ所でも見つかったら他の歯にも注意する必要があるため、異変を見逃さない姿勢が大切です。
2つ目は「歯肉口内炎」です。歯ぐきだけでなく、頬や舌の根元、咽頭といった口腔粘膜全体に炎症が広がる点がポイントです。真っ赤に腫れあがり強い痛みを伴う、猫にはとてもつらい病気の1つです。この原因もはっきりは解明されていませんが、歯垢や歯石といった炎症源に免疫が過剰な反応を起こして生じる可能性や、猫特有のウイルスが関わっているのではといった説が主流です。
症状として、強い口臭や血の混じった流涎(よだれ)、口を気にするしぐさ(前脚でひっかく、鳴くなど)、栄養不良による体重減少や毛づやの悪化が見られます。初期であれば歯石除去で改善が見られますが、重症になるとすべての歯を抜歯する他ないそうです。飼い主さんが気づく以外に、予防の手だてはありません。愛するペットのお口も毎日観察しましょう。