心房細動でもエベレスト諦めず「聖地」を訪れ冒険家の三浦雄一郎さん/医学博士・鵜野起久也

鵜野起久也 不整脈IQを鍛えよう

不整脈IQを鍛えよう<49>

心房細動を治したいという熱い思いで病院を訪れる患者に、心をうたれることも多くあります。

患者の思いを受け止めながら冷徹にカテーテルを進め治療を完遂する専門医の心は「鬼手仏心」でありたいです。

もう20年近く前、私が循環器部長をしていた「アブレーションの聖地」と呼ばれた病院での出来事です。患者の年齢は74歳、プロスキーヤーであり冒険家の三浦雄一郎さんです。「75歳でエベレストの頂に立つ」ことを目標にトレーニングを積んでいたのですが、チベット山系の登山練習で苦しくなり下山され帰国。ある大学病院を受診したところ、心房細動と診断されました。「その年でエベレストは無理です。カテーテルアブレーションでは難しい。三浦さん、もう十分でしょう」とドクターストップを宣告されていました。

三浦さんは、エベレストを諦めませんでした。ほうぼう探してようやく「あの病院でならアブレーションできるかも知れない」と「聖地」を訪れました。私の尊敬する上司の家坂義人(いえさか・よしと)副院長が三浦さんの心電図を私に見せて「これいけるか?」と聞いてきました。「いけます。治しましょう」と答えると、「同じ札幌からだし、君がアブレーション、いいね!」と話がまとまりました。

長年アスリートであり続けた三浦さんの心房細動は長期持続性の状態で、リモデリングのために心房の変形はかなり進んだ状態でした。スポーツ心臓の果てに起こった心房細動でした。

三浦さんは「エベレストに登るので治したいのです」と澄んだ目で訴えます。当時では発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションがいくつかの施設で始まったばかり。「治しましょう。変形が強いので1、2回でしょうか」。当時できる最大限の方法で熱意に応えようと決意しました。