五輪メダル量産基地にドローンが初潜入した。日刊スポーツ写真部のドローン班は味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)と、隣接する国立スポーツ科学センター(JISS)の内部撮影を行った。競泳プール、体操場、屋内テニスコート、陸上トレーニング場など、史上初のドローン撮影で「虎の穴」の全容に迫った。日本オリンピック委員会(JOC)強化第二部の中森康弘部長(56)からはNTC、JISSの立ち上げの経緯と今後の課題を聞いた。【取材・構成=鹿野芳博、田口潤】


NTCの屋内トレーニングセンター3階にある体操練習場を、上空約7メートルからドローンで撮影(撮影・鹿野芳博)
NTCの屋内トレーニングセンター3階にある体操練習場を、上空約7メートルからドローンで撮影(撮影・鹿野芳博)

■JOC強化第二部長 中森康弘氏に聞く


 日本は昨年のリオデジャネイロ五輪で、史上最多41個のメダルを獲得した。このうち、カヌー・スラローム男子カナディアンシングル銅メダルの羽根田卓也以外の選手は、NTC、JISSを常時利用していた。

 JOCの中森部長によると、70年代から強化拠点のトレーニングセンターの構想は出ていたという。だが、88年ソウル五輪を控えた韓国が70年代に設立。大きな成果をあげた。計画が暗礁に乗り上げた日本は96年アトランタ五輪では金3個、メダル総数14個の惨敗に終わった。国も危機感を持ち、00年、NTCを10年に設立することを決めた。

 JISSは一足早い、01年に完成。体操、柔道、水泳の練習場が設置されると、04年アテネ五輪は史上最多16個の金メダルを獲得した。五輪後、首相官邸に大会を報告。当時の小泉首相から「何か記念品を贈りたい」と言われた。JOC幹部は「記念品より、北京五輪までNTCを完成させてください」と直訴。10年完成予定が08年1月と、同年夏の北京五輪に間に合った。


NTCの体操場を飛行する「ファントム4」
NTCの体操場を飛行する「ファントム4」

 NTCの各施設は充実している。体操、卓球などは五輪で使用するものと同じ器具をそろえる。五輪ではないが、テニスは全米用のハードコート、全仏用の赤土を各2面用意。赤土もフランスから直輸入のこだわりだ。500人以上収容可能な宿泊施設、栄養管理が万全の食堂も完備。中森部長は「アスリート同士はもちろん、指導者同士の横の連携も、大きな効果が出ている」と話す。


■19年「第2トレセン」建設 全施設車いす対応


 来年からはNTCのそばで第2トレセンの着工に入り、東京五輪前年の19年5月に完成する。延べ面積は約3万平方メートルで地下1階、地上6階建て。射撃、アーチェリー、フェンシング、競泳、卓球の練習場に食堂、宿泊施設も完備される。

 最大の特徴はパラアスリートの利用に配慮した点だ。車いすバスケ、ボッチャなどの競技が使用可能で、駐車場、エレベーターなど、すべての施設に車いす対応を可能にした。中森部長は「リオのパラリンピックでは金メダルがゼロだった。東京でどこまで成果が出せるか」と五輪同様のメダルラッシュを期待した。東京五輪・パラリンピックに向け、NTC、JISSの重要性は増している。


NTCを陸上トレーニング場の上空約100メートルからドローンで撮影。中央右から屋内トレーニングセンター、国立スポーツ科学センター、屋内テニスコート、右手前は味の素フィールド西が丘、左端は建設中の第2トレーニングセンター(撮影・鹿野芳博、小堀泰男)
NTCを陸上トレーニング場の上空約100メートルからドローンで撮影。中央右から屋内トレーニングセンター、国立スポーツ科学センター、屋内テニスコート、右手前は味の素フィールド西が丘、左端は建設中の第2トレーニングセンター(撮影・鹿野芳博、小堀泰男)

<男子6女子4全ての種目 同時に練習できる>

 体操 屋内トレーニングセンター3階にある体操練習場。天井高15メートルで、1、2階の5メートルよりも高く、バレーボール、バドミントンと並んでいる。男子6種目、女子4種目のすべての練習を同時に行うことが可能で、天井や壁面のハイビジョンカメラで映像分析も可能。


 陸上 トラックは400メートル×6レーンで、その全てに屋根が付き、雨でも濡れずに走ることができる。傾斜走路は3つの角度(1・5、2・0、2・5度)が用意され全長63メートル。深さ約0・5メートルの砂場走路や、跳躍場、投てき場もある。


テニス ハードコートとレッドクレーコートがそれぞれ2面ずつある。照明で疑似的な西日などを作ることが出来、気温0~50度に調節可能。クレーは全仏オープンが行われるローラン・ギャロスと同じ赤土をフランスから輸入している。全仏前に錦織圭が調整することもある。


 水泳 JISS地下1階にある50メートル×8コースの競泳用プール。水深は可動床により0~2メートルに調整可能で水球競技にも対応できる。カメラが天井、壁面、プールサイド、地下ピットに設置され水中及び水上動作を撮影できる。天井にはキャットウオークと高速撮影用照明もある。


 ◆味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC) 東京・北区にあるトップレベルの競技者のための総合強化施設。総工費370億円をかけて08年1月に設立。バレーボール、柔道、レスリング、アーチェリーなど各競技の専用施設があり、国立スポーツ科学センター(JISS)にも隣接。併設する宿泊施設には食堂やビデオルームなども。日本スポーツ振興センターが管理し、スポーツ振興くじ(toto)の収益で運営されている。


 ◆国立スポーツ科学センター(JISS) 01年10月、東京都北区西が丘に設置。スポーツ科学、医学、情報研究の中枢機関で、日本の競技力向上を支援するのが目的。故障した選手のリハビリや、コンディショニングを担当するスポーツ医科学研究部、選手の動きやバイオメカニズム(生物形態、運動情報)を分析するスポーツ科学研究部、さらにスポーツ診療事業などがある。競泳、シンクロ、射撃などの練習場もある。