東京パラの顔谷真海に悲報、東京パラに出られない

5月、横浜大会の女子PTS4で優勝のゴールテープを切る谷真海

 2020年東京パラリンピックの顔、パラトライアスロン金メダル候補の谷真海(36=サントリー)が、同大会から「排除」される。国際トライアスロン連合(ITU)は6日、同大会の実施8種目を発表。谷が出場する運動機能障害PTS4クラスの実施が見送られた。13年の大会招致で活躍し、出場を目指して陸上から転向した知名度抜群のパラリンピアンに突然の悲報。東京大会開幕(8月25日)まで2年、金メダル獲得を目標に努力を続けてきた大会から締め出された。

 「ここまで頑張ってきたのに…」。谷は消え入りそうな声で言った。陸上競技の走り幅跳びで3大会連続パラリンピックに出場した谷だが「東京大会で金メダルをとるために」トライアスロンに転向。昨年の世界選手権で優勝するなど出場全9戦で優勝し「金メダル確実」と言われたが、出場の道さえ閉ざされた。

 国際パラリンピック委員会(IPC)は昨年7月、東京大会の実施種目を発表。陸上と競泳の詳細な種目も今年1月に発表されたが、トライアスロンだけは未定だった。男女各6カテゴリーの実施を求めるITUと種目数を制限したいIPCの間で調整が難航し、選手を置き去りにして決定が引き延ばされてきた。

 結局、実施は1月にIPCが発表した男女各4種目。車いす、視覚障害と運動機能障害の2カテゴリーになった。PTS4は競技人数が少ないことなどを理由に選外。他の競技では障害の程度の軽いクラスに出ることを認める例も多いが、トライアスロンは自身のクラス以外は出場不可。選手が、パラリンピックに出る資格さえ失うのだ。

 東日本大震災で被災した宮城・気仙沼市出身の谷は、早大時代に骨肉腫で右足膝下を切断。13年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会プレゼンテーションのスピーチでスポーツの力を訴え、東京大会招致に貢献した。抜群の知名度と発信力で「パラリンピックの顔」として活動してきただけに「今まで、何をやってきたんだろうと思います」と力なく話した。

 日本にとって、谷の不出場は痛い。日本トライアスロン連合(JTU)はオリンピック(五輪)、パラ通じて初のメダル獲得を期待していたし、その可能性は高かった。大会を盛り上げる意味でも存在感は圧倒的だっただけに、本人は「どうやって2020年を迎えればいいのか分からない」ともらした。

 ITU副会長でもあるJTUの大塚真一郎専務理事を中心に谷のクラスを実施するように動いてきたが、及ばなかった。今後はより障害の軽いPTS5との統合を目指す見込みだが、それも不確定だ。それでも、常に前向きな谷はこれまで通りにトレーニングを続け、連覇を狙う世界選手権(9月・オーストラリア)にも出場する予定。「少しでも可能性がある限り、最後まであきらめない」と、悲壮な決意を口にしていた。

 ◆谷真海(たに・まみ)旧姓佐藤。1982年(昭57)3月12日、宮城県気仙沼市生まれ。チアリーディング部に所属していた早大在学中の02年に骨肉腫を患い右足膝下を切断。義足で走り幅跳びを始め、04年アテネ大会からパラリンピック3大会連続出場。04年にサントリー入社。13年9月のIOC総会で東京のプレゼンターを務めるなど大会招致、パラリンピックの認知度アップに貢献した。14年9月に1歳上の広告代理店勤務の男性と結婚し、15年4月に第1子を出産。

 ◆パラトライアスロン 身体障がい者によるトライアスロンで、パラリンピックでは16年リオデジャネイロ大会から実施されている。スイム(0・75キロ)バイク(20キロ)ラン(5キロ)と五輪の半分の距離で争い、合計タイムを競う。カテゴリーは男女ともに6ずつ。PTWC(車いす)、PTV1(視覚障害)、PTS2~5(運動機能障害)に分かれ、PTWCとPTV1は障害の程度に応じて時間補正が行われる。国際トライアスロン連合(ITU)が五輪とパラの競技を管轄する。