ブラサカ日本vs王者ブラジル 7月岩手で激突

川村怜主将は高田敏志監督(後方)のアドバイスを受けながら戦術練習(撮影・小堀泰男)

ブラインド(5人制)サッカー日本代表がブラジル代表にアタックする。パラリンピック4連覇中の世界最強国は7月4日から17日まで、岩手県遠野市でキャンプを行う。20年東京大会に開催国枠で初出場する日本は、この絶好機に対戦をオファーし、このほど練習マッチが正式決定した。日本代表主将でエースストライカーでもある川村怜(30=Avanzareつくば)にブラジル戦の意義、チームの現状、東京への思いを聞いた。

■川村主将「楽しみ」

川村の端正なマスクが険しく引き締まった。パラリンピック4連覇、世界選手権3連覇中の最強王者ブラジルが来日する絶好の機会。日本協会が練習マッチ実現へ動き、遠野市へ赴いての対戦が実現する。

「ブラジルと戦える機会はそう多くないし、世界で一番強いチーム。日本の現在地を知るためにもこれ以上ない試合になると思う。楽しみです」

川村の代表キャリアの原点になったカードでもある。13年に全盲の診断を受け、日本代表に初選出された。3月の日の丸デビューがブラジルとの親善試合。0-2の後半に代表初ゴールを決めた。日本選手として初めてブラジルのゴールをこじ開けた。この試合を含めて日本はブラジルと9度対戦して未勝利。ただ、昨年8月の南米遠征では0-4で完敗した翌日に0-0で引き分けた。GK佐藤大介(35)のビッグセーブもあって初めて無失点に抑え、初めて負けなかった。それから約1年を経ての対戦になる。

「今、僕たち代表は得点力、決定力を上げることを課題としてトレーニングしている。プレーの強度の高い海外勢を相手に、しっかりとシュートを打ち切れるようにしたい」

今年3月に東京で開催された8カ国出場の国際大会ワールドグランプリで、世界ランク9位の日本は同4位のスペインを破るなど1次リーグをトップ通過。目標に掲げた優勝へ王手をかけるはずの準決勝で同12位のイングランドに苦杯を喫した。何度もゴールに迫りながら体力差と長い脚に阻まれて決定的なシュートを打てず、後半のカウンターに沈んだ。さらに3位決定戦ではスペインに雪辱を許してメダルも逃している。

「勝てる相手に負けた悔しさが残っている。準決勝まで1日空いたことで力が出し切れなかった。メンタルを含めて見直さないといけない」

今月中旬の強化合宿では新たな攻撃パターンをテストした。GKスローから4人のFPが流動的にパスをつないで両サイドのスペースを効果的に使い、相手マークを引きはがしてフリーでシュートを狙うスタイルだ。15年に就任した高田敏志監督(52)は攻撃サッカーを目指してチーム改革を重ねるが、その中核を担うのが川村でもある。

「僕たちは命を削って、生活を犠牲にして東京のメダルを目指している。狙うのはもちろん、金メダルです」

開催国枠で初出場する東京で世界の頂点へ。壮挙を掲げる日本にとって、ブラジル戦は可能性を示すバロメーターになる。【小堀泰男】

★ブラサカあらかると

○音と声 全盲でアイマスクを着けた4人のFP(フィールドプレーヤー)と晴眼、もしくは弱視者のGKでチームを編成。ボールはフットサルと同じ大きさで転がると音が出る。攻撃時は相手ゴール裏に立つガイド(コーラー)が、守備時にはGKが指示を出す。

○ボイ FPはボールを持つ相手に向かうときに「ボイ(Voy=スペイン語で『行く』)」と声を出さねばならない。危険な衝突を避けるため。

○フェンス ピッチは40メートル×20メートルでフットサルと同じ。サイドライン上に高さ約1メートルのフェンスがある。

○PKと第2PK ペナルティーエリア内でファウルするとPKに。ゴールから6メートルの位置から蹴る。前後半別にファウルが6つを超えると第2PKになる。ゴールから8メートルの位置から蹴る。GKはゴールエリア内でしかプレーできない。

○20分ハーフ 試合は20分ハーフで交代は前後半各6人まで。特別なルール以外はフットサルに基づく。

 

◆川村怜(かわむら・りょう)1989年(平元)2月13日、大阪府東大阪市生まれ。5歳の時に患ったぶどう膜炎の影響で次第に視力が低下し、13年に全盲と診断される。小学生の時はサッカーに熱中。中学校入学後は危険を避けるために陸上の中距離を始め、大坂・日新高卒業まで続けた。鍼灸マッサージ師の資格取得を目指して筑波技術大に進学し、同大のサークルでブラインドサッカーに出会う。13年に日本代表に初選出され、15年から主将。アクサ生命勤務。169センチ、63キロ。

 

<国際大会に出場中>日本代表は現在、トルコで開催されている国際大会に出場中。トルコA・B、スペインA・B、ルーマニアとの1次リーグは4勝1分け。川村7点、黒田5点と攻撃陣が好調で、27日の決勝では引き分けたトルコAと対戦する。8月に英国に遠征し、9月にはアジア選手権(タイ)に出場。同大会は2年に1度開催され、今回は20年東京の出場権がかかる。日本は開催国枠で出場が決まっているが、世界3位イラン、同5位中国、同10位韓国らとの真剣勝負でチーム力を熟成させていく。

 

<ホストタウン遠野>遠野市が20年東京五輪・パラリンピックでブラジルのホストタウンに登録されていることから今回のキャンプが実現した。4~17日の期間中には代表メンバーと市民の交流会のほか、パラスポーツ体験会なども予定されている。遠野高は全国選手権28回、全国総体20回出場の名門で市民のサッカー熱も高い。カッパ伝説でも知られる同市は、20年以降もブラジルとの交流を深めていく計画だ。