岸田悠弥49秒台前半で走れたら東京が近づいてくる

東京パラリンピック出場を目指してトレーニングを積む岸田悠弥(撮影・小堀泰男)

陸上の知的障がいクラス(T20)男子400メートルで、岸田悠弥(23=ダイバーシティA.C.千葉)が日本選手初の50秒突破に照準を定めている。昨年は走るたびに自己ベストを更新し、50秒83まで記録を伸ばした。今年の目標タイムである49秒台前半を5月までにマークできれば、東京パラリンピック出場の可能性も広がる。20年初レースは3月22日のワールドチャレンジin岡山。岸田は27日から沖縄で強化合宿に入った。

■自己ベストを連発

軽快でありながら力強い。岸田がトラックを弾むように風を切って駆け抜ける。腕の振りと脚の回転が精密なハーモニーを奏でているようだ。「今年中に49秒20~30は出したい。東京パラリンピックにも出られるのなら、出てみたいです」。口調は淡々としているが、明確な目標を設定して今シーズンを迎える。

瞬く間に日本のトップに躍り出た。昨年はレースのたびに自己ベストを更新。特に7月の2大会の走りは鮮烈だった。関東パラ(東京)で全国レベルでの400メートル初タイトルを獲得。2週間後のジャパンパラ(岐阜)では予選、準決勝、決勝を1日で消化する過酷な日程にもかかわらず、後続を突き放して圧勝した。10月の順大競技会では50秒83と初めて51秒を切った。

指導するダイバーシティA.C.の大門寛子コーチも明言する。「能力的には49秒台がいつ出てもおかしくない。よほど条件が悪くなければ、3月の岡山で50秒を切ると思います」。同い年の石田正大(大興運輸)が50秒66の日本記録を持つが、昨年は1度も先行を許していない。師弟が今年見据えるのは東京パラ出場につながるハイパフォーマンス標準記録の49秒87突破、49秒台前半だ。まずはWPA(国際パラリンピック委員会陸上部門)公認のワールドチャレンジin岡山、ジャパンパラ(5月2~3日、国立競技場)での自己ベストを狙う。

中学では800、1500メートルを中心に走っていた。高校(特別支援学校)には部活動がなく、社会人1年目までは他のクラブチームに在籍したが目立つ実績はなかった。しかし、16年にダイバーシティA.C.千葉に移って競技生活が一変した。「どんな練習でものみ込みが早いし、体の反応がいい。センスを感じた」と大門コーチ。400メートルへの適性を見いだされ、一昨年から特化したメニューを積んで躍進につなげた。

■将来のメダル候補

長い距離を走っていたことで持久力がある。それに加えて筋出力も高く、スピードとキレも兼備する。ただ168センチ、56キロ、体脂肪率4%のスリムな体をもう少し大きくしなければならない。太もも裏や腰回りの筋力を増やし、さらに出力をアップすることが課題になる。それだけ伸びしろも大きい。

「ラスト100メートルでさらにスピードを上げる走りをしたいです。将来は47秒台まで出せると思っています」と岸田。まだ世界の大舞台に立っていない将来のメダル候補にとって、東京パラのトラックは何物にも代えがたい経験と勉強の場。日本初の49秒台、標準記録を突破してさらにその先へ、今日から5日間、沖縄でチームメートと徹底的に走り込む。【小堀泰男】

◆岸田悠弥(きしだ・ゆうや)1996年(平8)11月1日、千葉県八街市生まれ。八街北小から八街中を経て印旛特別支援学校さくら分校卒。現在はイトーヨーカ堂勤務。中学入学後に陸上を始め、800、1500メートル、ロードレースなどに出場。さくら分校に部活動はなく、クラブチームなどで練習しながら3年時に全国障害者スポーツ大会800、1500メートルで2位。その時の県代表コーチ清水崇史氏がダイバーシティA.C.千葉のコーチになっていたことで、16年6月に同クラブに加入した。17年の全国障害者スポーツ大会800メートル1位。168センチ、56キロ。家族は両親と弟。

<陸上アラカルト>

★T20は8種目 東京パラリンピックの陸上競技は男女167種目が実施される予定だが、知的障がいのT20クラスは男女400メートル、1500メートル、走り幅跳び、砲丸投げの計8種目。それ以外は身体障がいの種目になる

★出場するには? トラック&フィールドは(1)昨年11月の世界選手権(ドバイ)で4位以内(2)WPA東京パラランキング(19年4月1日~20年4月1日)6位以内(3)WPA公認大会(18年10月1日~20年6月7日)でハイパフォーマンス標準記録を突破し、(1)(2)で出場枠未獲得の選手から8位入賞の可能性のある選手に対して選考委員会で推薦順位を決定する。1種目最大3人

★岸田は? 東京パラランキングは20位(記録は昨年7月ジャパンパラの51秒18)。同ランキング6位の選手は48秒97。ハイパフォーマンス標準記録の49秒87突破が東京パラ出場への絶対条件になる

★内定16人 世界選手権(マラソンは昨年4月、ロンドン)4位以内で代表に内定しているのは16人。知的障がいの内定者はいない。マラソンは4月のW杯ロンドン大会とハイパフォーマンス標準記録などで出場選手が最終決定する