【五輪日和】柔道のルーレット、世界に開かれた「Judo」ゆえの新たな価値 保守と革新の両輪

パリ五輪 混合団体決勝 フランスとの対戦で3-3となり、ルーレットによる抽選で男子90キロ超級と決定。決戦に臨む斉藤立を激励する日本チーム(撮影・パオロ ヌッチ)

<五輪日和>

「リネール確定ガチャ」「リネールーレット」「ズルーレット」

柔道混合団体の代表決定戦。その階級を決める無作為の「ルーレット」による抽選が大きな話題となっている。

金メダルを懸けた最後にまさか、こういう演出が待っているとは思わなかった。「礼に始まり、礼に終わる」伝統的なスポーツにルーレット。武道にエンタメ性を取り入れた、その発想がおもしろい。結果はともかく、世界に広く関心を持ってもらうという観点では革新的な一手だった。

柔道は言わずと知れた日本発祥の伝統スポーツ。1964年(昭39)の東京五輪で正式種目となり、1992年のバルセロナ五輪から女子も正式種目となった。

大きな変化となったのが、2000年のシドニー五輪での「カラー柔道着」の導入だ。国内では長く「清い心の象徴」とする白道着へのこだわりが強かった。日本連盟は反対の立場を取ったが、世界はカラー柔道着を推した。青と白の2色によって観戦者は容易に両者を識別できるメリットがある。それは今や常識となっている。

今回のルーレット導入は、柔道が「Judo」としてより歩みを進めていることを示している。どこか特定の地域に閉ざされたものであれば、伝統に縛られ、こういう自由な発想は生まれなかっただろう。

柔道の創始者で日本のオリンピック参加の道筋をつけた嘉納治五郎(1860~1938年没)が、柔道を世界に普及させた。今や世界200カ国以上で2000万人以上とされる競技者がいる。

当然、オリンピックで日本選手が常に勝てる「お家芸」ではなくなった。裏を返せば、世界中で愛され、競技レベルが向上したことの証し。友好的な社会の実現、世界平和を抱いて普及活動に尽力した嘉納治五郎の理念が、花開いたといえる。さまざまな国旗がオリンピックの表彰台に並ぶ。これこそが「Judo」なのだと思う。

パリ五輪では、フランス発祥のフェンシングで日本人選手の躍進が目立っている。中でも、個人エペで加納虹輝がフランス人選手を破り金メダルに輝いたのは歴史的だった。今回の柔道とはまったく反対の結果である。世界に広く開かれ、フェンシングという競技が成熟していることを表している。

スポーツに限らず、世界中はイノベーションが進んでいる。従来のやり方に固執せず、新たな発想によって大きな変化をもたらす。それでも守るべきところは守るという伝統と、新たな価値を生み出すための変化は両輪であっていい。

「お家芸」。世界中で愛される柔道とあれば、使い古されたこの言葉はもう捨てたい。【佐藤隆志】

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