<パリオリンピック(五輪):柔道>◇27日◇男子60キロ級3位決定戦◇シャンドマルス・アリーナ
【パリ=木下淳】元世界ランキング1位の永山竜樹(28=SBC湘南美容クリニック)が、初の五輪で意地の銅メダルを獲得した。準々決勝で“誤審”とも受け取れる不可解判定を喫した後、敗者復活戦で台湾選手を退け、迎えた3位決定戦もでトルコ選手に技あり2本の合わせ一本勝ちで破って、最低限の表彰台は死守した。
物議を醸したのは準々決勝について、全日本男子の鈴木桂治監督(44)が取材に応じ「悪魔の6秒間」「地獄の6秒間」と称して、怒りの説明をした。
昨年の世界王者ガリゴス(スペイン)と対戦。締め技を耐え、しっかりと足も二重に絡めて防いでいたが、審判が「待て」の合図を出した。普通は、試合は止まる。しかし、その後も相手は力を緩めない。5~6秒間にわたって締められ続けた。
一方の永山は「待て」を信じ、力を抜いた。直後、立ち上がろうとした時、ふっと意識を失った。あおむけになり、自ら立ち上がるまで「落ちた(失神)」と判断された。「待て」の後だったが、一本負けになっていた。
準々決勝4カードが終わった後、審判団長ら3人と映像担当へ抗議に行った鈴木監督が「熱くなってすみません」と言いながら、状況を明らかにした。
まずは「やはり判定が覆るとは思っていません、というか、可能性は低いだろうなと思ってはいましたけど、選手は抗議できない。現状、あの形しかない」とした上で「やはり平行線でした」と状況を説明した。
「まず『落ちたよね?』と聞かれて。『どうだ、それは?』って。(『待て』後の)トータルで見たら落ちていたと思う。グラッときたと思う。そこでもう、審判団は笑っているわけですよ。『だよね』と。僕らが言いたいのは、落ちた落ちてない、ではなく『待て』と言われた後の6秒間、絞め続けることが柔道精神に則っていますか? ということ。今、国際柔道連盟(IJF)は、頭で防いだり、足を蹴ったり、けがの防止、柔道精神を強調するルールになって、厳しく取っているのに。例えば関節技を6秒間、無抵抗の相手にかけたら反則負けですよね」と力を込めた。
しかし「平行線」は続いた。「落ちてるよね?」の連続だった。
その中で唯一、審判団が認めたのは「待て」が間違いだった、ことだという。鈴木監督は「そこは認めて『審判は試合を継続するべきだった』と。審判の『待て』は、選手にとって(守る側は)神の声の場合もあれば(攻める側には)悪魔の声の場合もある。永山選手は、しっかり両足を絡めて力を入れて、下へ下へ、相手を引き離そうとしていました。そこは映像に残っているので、そこまでは落ちていないことも確認できるんです」と強調した。
しかし「耐えていても、ずっと締められていた状態から離された後、時間を置いて、ふっと意識が…ということはある。そういう究極の戦いをしている中、あの『待て』は間違いだったと言われても、絞めが継続されていたら終わり。悪魔の6秒間。地獄の6秒間。スポーツ精神、柔道精神に則ってますか? ということは何度も言いましたが、向こうは、それには返さず『落ちたよね』と。さらには審判が『少しずつ落ちていくのを確認した』とか言い始めたそうで、向こうが二転三転してきても、こちらは映像しかない。その映像も真っ正面から選手の表情を撮れているわけではないですし」と、つまびらかにした。
一方で、判定が覆るどころか、永山が畳に残って抗議したことへの厳重注意を受けたという。「柔道家として、ふさわしくない行動だったかもしれないですけど、僕は少しでも問題提起になれば、それはそれでいい」と理解を示し「選手が言えない。『あなたたち(監督ら)が来ればいい』と言われたので。これからもそうするしかないんでしょうけど」と困惑した。
相手のガリゴスにも、あの場面について取材すると、こう答えた。
「試合中は本当に頭が真っ白になるので、全く聞こえていないことが何度もあるし、何も聞こえていなかった。『待て』という言葉が分かって、近づいてきた審判を見た時、全ての動きを止めて手を離した。最終的に、ナガヤマが気を失っているのを知ったんだ」
試合直後の永山は、両手を広げ、ガリゴスの握手も拒んで抗議した。スペインの応援団をはじめ、欧州の観客からブーイングや指笛を浴びたが、畳を降りたら終わり。約5分間、居残って映像確認を求めたが、状況は動かなかった。礼をして退いた際に「待てって聞こえた」と漏らした。
表彰式の前に、取材に応じた永山は「負けてから切り替えるのが大変だったんですけど、親や妻、長男、たくさんの方々が応援に来てくれたので。手ぶらで帰るわけにはいかなかった。最低でも銅メダルだと思って、気力だけで戦いました」と笑顔なく話した。
「待て」については「聞こえてたんですけど、やっぱり、そこで自分が気を抜いてしまったので…。自分は、首が締まってるところに指を入れて耐えてたんですけど『待て』で力をちょっと抜いたところに、入られてしまって。そこから、ちょっと記憶がないんですけど。でも『待て』の後も耐えていた中、しっかり『待て』になるまでが結構、長くて。気づいたら、ああいう形になってしまって。正直、何が起きたか分かっていなくて。『待て』がかかったのは覚えてたんで、おかしいなとは思ってたんですけど、でも、そう言われてしまった自分に隙があったのかな」と神妙に話した。