【柔道】五輪2連覇の阿部一二三、妹・詩の敗戦で新たな目標「兄妹でロスの金メダルを取る」

2大会連続の金メダルを手にする阿部一二三(撮影・パオロ ヌッチ)

<パリオリンピック(五輪):柔道>◇28日(日本時間29日)◇男子66キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ

【パリ28日(日本時間29日)=木下淳】妹の悲劇を乗り越えた。

21年東京五輪金メダルの阿部一二三(26=パーク24)が、日本柔道8人目の五輪2連覇を成し遂げた。女子52キロ級の妹詩(24=パーク24)が2回戦敗退。自身の初戦を迎える前に史上初の「きょうだい2連覇」が消滅した瞬間を見届けてから、一切の油断を排除した。前人未到の4連覇を狙うが「ロスで妹と金メダル」と28年ロサンゼルス五輪での3連覇を「新たな目標」に定めた。

   ◇   ◇   ◇

鬼気迫る表情で、決勝も攻め倒した。技あり2発、合わせ一本勝ちでリマ(ブラジル)を粉砕。「一二三コール」を背に代名詞の袖釣り込み腰でぶん投げた。人さし指を1本ずつ突き上げて2連覇を誇り、有観客に戻った五輪の大歓声に360度、その場で回って笑顔で応える。最後は正座して、頭を畳につけた。「これが五輪だ」。感動した。

「これが兄だ」の思いも込めた。自身の初戦40分前に、詩が敗退。会場に悲痛な涙声が響き渡る。「想定外」。兄はウオーミングアップ会場のモニターで見ていたが、その瞬間、表情を変えることなく、きびすを返して後方の畳へ戻った。調整を再開し、詩と会うのも試合後と決めた。勝負師には動揺が見えなかった。

内心は違った。「正直、泣きそうになった」。驚きは「こんなにも苦しく、つらいものなのか」という感情に変わる。「兄として、妹の分までやり切る」と覚悟を決めると、毎試合の前に、自分に言い聞かせた。

「泣くのは今じゃない」

思い返せば、妹が負ける姿はほとんど見たことがなかった。一方、兄は宿敵丸山城志郎に3連敗するなど「自分の方が勝てない時期が長くて。その時、頑張る妹の姿に救われてきた」。東京五輪の後は、ともに無敗。史上初きょうだいV2の重圧も、のしかかった。

23日にパリへ入ってからも、異変はなかった。いつも一緒に食事していた。「ご飯も量をしっかり食べていたし、減量も順調だったし、心配はなかった」。試合も「最初に技ありを取って、大丈夫だなと。でも事故は起きた」。できることは、油断を排除すること。「自分が負ける状況は想定したけど、妹の方は考えもしなかったし、信じられない。ただ、自分も東京の時より明らかに緊張していたし、気を引き締めた。すくんでしまったらダメだ。自分の柔道をするだけ」と。

迎えた準々決勝は、あわやの事態にも見舞われた。激しい組み手争い。2度の鼻血で中断した。「かなりの出血。止まらない」。焦った。鼻から目の高さまで綿を詰めてもらい「もう時間がない。投げにいく」。難敵エモマリ(タジキスタン)を強引に仕留めた。国際柔道連盟の規定で、同じ部位で3度目の出血があれば「棄権」を宣告される場合があった。自分のためにも必死だった。準決勝も、危うく負けそうになる足技を食らった。この3年間で一番のピンチだったかもしれない。空中で身体をひねった。決勝は無双だった。

観客席の詩を、悔し泣きから、うれし涙に変えた。

妹と、苦しさ半分、喜び2倍。詩は「また、この舞台で金メダルを取れる力を身につけたい」と次の4年間へ救われる言葉を残したが、兄は「詩が負けてしまったことで、新たな目標ができた。もっともっと頑張らないといけない理由が。兄妹で、ロスの金メダルを取るために」。スターは日本柔道初の4連覇を掲げているが「その前に、まずは3連覇」。妹を巻き込む。

座右の銘は「努力は天才を超える」だ。「絶対に無駄な努力はないし、東京五輪からの3年間はきつかったけれど正しかった。もっと強くなれる。前向きな言葉を、詩にはかけたい」。

兄は格好良かった。決勝後、妹と再会。声をかけるはずが、反対にもらった。

「おめでとう」