パリオリンピック(五輪)のサッカー男子日本は、2日(日本時間3日)の準々決勝で優勝候補のスペインと対戦する。1次リーグ全3試合に出場したDF西尾隆矢(りゅうや、23)は、代表と所属先セレッソ大阪では副主将の役目を与えられ、ピッチ内外で先頭に立つ。これまで育ててくれた両親への感謝を胸に、56年ぶりのメダル獲得を目指す。
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かつて社会科の高校教師だった父隆一(りゅういち)さん、母清美さんの次男として大阪・八尾市に生まれた西尾は、両親への感謝を胸に五輪で戦っている。
「サッカーで恩返しするしか、自分には方法がない。活躍している姿を見せ、結果を残すことが、両親への感謝になる」
西尾と5学年違いの兄隆世(りゅうせい)さんは、父と同じ「隆」の字を授けられ、厳しく教育された。
「お父さんには、自分がやると決めたことを中途半端にすれば、むっちゃ怒られた。本当に怖かった。お母さんには、自分を犠牲にするぐらいの思いで、人に感謝しなさいと言われた。その考えで人生、マイナスになったことはない。両親のおかげかなと思う」
C大阪下部組織育ちの西尾は、プロ5年目の現在もクラブハウスや試合会場の控室を、率先して掃除している。自らの着替えや荷物は常に整理整頓、タオルなどは余分に用意する。180センチの筋骨隆々な外見とは違う、極めて繊細できちょうめんな性格だ。
C大阪U-15(ジュニアユース)時代の15歳で初めて主将を任された。U-18(ユース)時代の高校2年からトップチームなどで指導にかかわった、小菊昭雄監督(49=当時コーチ)は言う。
「責任感が強くて向上心のかたまり。私生活では周囲に気配りができる子で、サッカーになれば、カバリングなどで仲間を助けるプレーにつながる。両親の愛情、育て方の影響が大きいと思う」
西尾の名前が、不本意ながら有名になったのは今春のU-23アジア杯。五輪予選を兼ねた大一番の初戦中国戦で相手に肘打ちし、前半で一発退場。仲間に迷惑をかけ、SNS上でも批判にさらされた。
その時、カタールにいる西尾に、父親からLINE(ライン)が届いた。
「やったことは仕方がない。サッカーで結果を出していくしかない。隆矢にはサッカーしかないやろ」
どんな試合でも、父はその感想を短い言葉で送ってきてくれるという。
「あの試合もいつも通りのやりとり。でも、そこで僕は切り替えられた」
7月6日のJ1リーグ、東京ヴェルディ戦。五輪のバックアップメンバーに入った相手のMF山田楓喜(ふうき、23)が、C大阪の選手への危険なプレーで一発退場となった。怒るC大阪の選手との間に立ち、西尾は山田に寄り添った。
「楓喜はわざとやる選手では絶対ない。僕が一番知っていたから、仲間にはそう伝えた。本人が一番、悔しかったはず。そこはキャプテンシーではなく、1人の友達に対して出た言葉です」
西尾が普段、最も口にするのは「ありがとう」。フランスへの出発前の取材で心境を聞かれると、同じ言葉を色紙に記した。選手やスタッフはもちろん、関係者への気配りや感謝を欠かさない。そこには、西尾が両親から受けた教育や愛情が垣間見える。
パリへは母が応援に駆けつけ、父や夫人、1歳の娘は日本でテレビ観戦している。3戦全勝で首位通過した1次リーグは本職のセンターバックと、これまでも兼務した左右サイドバックで全試合に出場。オール無失点を成し遂げ、次は日本が東京五輪の準決勝で敗れた因縁のスペインと当たる。
「金メダル獲得は全員が思っていること。リーダーシップをとって、無失点の試合を多くしたい」
ピッチ内外で西尾が存在感を発揮し、68年メキシコ大会以来、56年ぶりのメダルへと導く。【横田和幸】
◆西尾隆矢(にしお・りゅうや)2001年(平13)5月16日、大阪・八尾市生まれ。C大阪U-15、U-18を経て20年にプロ契約を結び、今季が5年目。屈強なセンターバックで、今季は攻撃の起点となるパスが向上。22年1月には日本代表候補合宿に初招集。J1通算79試合3得点。夫人と1女。180センチ、77キロ。