<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇6日(日本時間7日)◇男子グレコローマンスタイル60キロ級◇シャンドマルス・アリーナ
グレコローマンスタイル男子60キロ級の文田健一郎(28=ミキハウス)が日本勢として40年ぶりの同スタイルで金メダリストとなった。決勝で曹利国(中国)を4-1で撃破した。
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文田が「世界一のパパ」になった。会場には東京五輪後に結婚した有美さんと23年に生まれた長女遙月ちゃんがいた。家族が救ってくれて始まった3年間だった。
21年東京大会の決勝で持ち味の投げ技を封印されて敗れ去った。号泣して奈落に落ちた。その後の生活を有美さんは「1週間くらいはダメ人間みたいな生活(笑い)」と振り返る。「朝まで飲んで寝て、昼すぎに起きて、足りないお酒を買いに行って、また夕方から飲んだり」。それでも気持ちは上を向かない。
住居がある関東から2人で旅に出た。行き先は決めない。山口県に住む日体大の同期に会おうと、西へ車を走らせた。宿泊も気ままな2人旅は「体重も気にしないで、食べたいものを食べて」。74・5キロとなった時点で体重計に乗るのはやめた。「この景色いいね」「近くおいしいご飯屋さんがあるらしい」。たわいもない会話が癒やしだった。
2週間が過ぎた頃、博多にいた。朝起きると文田の口にヘルペスができていた。「マジで家が好きなんで。本当に楽しかったんですけど、『家に帰りたい!』って」。来た道を13時間で戻った。「やったー! 家だ!」。その道中で思った。「もう1回、練習を再開してみようかな」。再生の兆しだった。
すぐにパリへ気持ちは向けられなかったが、はい上がるしかなかった。「奥さんがいたから。いなかったら目指せてなかった」。長女遙月ちゃんも授かり、戦う姿を見せたいと一層打ち込めた。決勝後、有美さんは「やっぱり頂点が似合うな」と表彰式を見つめた。文田は「強い父にはなれましたけど、これからは父親としても金メダルをもらえるように頑張ります」と笑顔で次の頂点を誓った。【阿部健吾】