【五輪日和】「グッドルーザー」高谷大地が体現した五輪の理念、アントニオ猪木さんを思い出した

フリースタイル74キロ級決勝 金メダルのラザムベク・ジャマロフを持ち上げて祝福する高谷大地(撮影・パオロ ヌッチ)

<五輪日和>

「グッドルーザー」

負けっぷりの良さ、その潔さは今回見た五輪の中で一番だった。レスリング男子74キロ級決勝で、高谷大地がフォール負けした。試合は完敗だった。だが直後の行動に心を引かれた。

ラザムベク・ジャマロフ(ウズベキスタン)を抱き上げて勝利を称えた。相手も高谷の手を取り上に掲げ、がっちり抱き合った。互いに組み合った者同士が心を通わせ、認め合い、連帯を示した場面だった。

勝負の先にある、スポーツの持つ高潔さを感じた。

あの有名な1984年ロサンゼルス五輪の柔道無差別級決勝の山下泰裕とモハメド・ラシュワン(エジプト)を思い出した。ラシュワンは右足を負傷していた山下に対し、負傷個所を狙った攻めではなく、自分本来の組み手からの真っ向勝負を挑んだ。そして敗れた。

試合よりもむしろ、直後の行動の方が印象深い。取り合った手を上に掲げ、たたえ合った。表彰台に上がる際には、足を痛めている山下の手を取り、介助した。ラシュワンは国際フェアプレー賞を受け取っているが、その後の人生において、両者が深い交流を続けていることに胸を打たれる。

オリンピアンたちが帰属する国ごとに歴史があり、それに基づき、文化や政治が成り立っている。バックボーン、アイデンティティーが異なる者同士が手を取り、連帯を示す。オリンピック憲章に記されている「人間の尊厳を保つことに重きを億減いわな社会の確立」への一歩が、そこに見える。

11年前、今は亡きアントニオ猪木さんに話を聞いた。元陸上競技のオリンピアン、為末大さんに同行したものだった。

プロレスラーとして築いた人気を盾に、政治的緊張関係にある国にも積極的に入った。ロシア、中国、キューバ、パキスタン、イラン、北朝鮮…。かの地でさまざまな友好関係を個人レベルで築いた希有な人。スポーツの枠を超越した真のスーパースターだったと思う。

そのインタビューの中で、為末さんが自身の経験をこう話した。

「オリンピックに出ていると、そもそも人間っていう感じの、人類という感じで共有するものがあったりする。国同士の戦いですけど、人間の限界にチャレンジする。そうなると敵も味方もなくなって、より高みをみんなで目指そうみたいな雰囲気になる時がある。そういう力がスポーツにはあって、それを体験すると、国と国との間に抱えている問題が小さくなってくる」

それに呼応するように、「スポーツ平和」を掲げる猪木さんはこう返した。

「ある意味、超越したね。そういう思考というか。そこはスポーツのすばらしさ。我々は逆に言えば1対1で戦う。戦った後、力出し切った時に本当に友情というものが生まれる。(ボクシングの)モハメド・アリとは、ここのところ病気で会ってないですけど。彼が戦ってきた歴史の中で、一番友情が厚いんじゃないかな。彼からしてもね。私にとってもそうです」

再び、冒頭のレスリング高谷である。戦い終えると、会場のスタンドに向かい、そこに割って入った。自身の応援団だけでなく、さまざまな国の人と笑顔で手を取り、肩を抱き合い、記念撮影に応じた。その天真爛漫とした行動に心を揺さぶられた。

五輪の開閉会式で使われる定番曲、ジョン・レノンの「イマジン」。その歌詞の最後の一節は「世界はきっと一つになる」と結ばれる。

真の「グッドルーザー」は、オリンピックの理念を体現した。【佐藤隆志】