五輪4連覇を目指した53キロ級の吉田沙保里(33)は、決勝戦で過去2戦2勝のヘレン・マルーリス(24=米国)と対戦。1-4で敗れ、銀メダルに終わった。吉田の個人戦黒星は01年の全日本選手権以来15年ぶり。連勝は206試合、13連覇中の世界選手権と五輪を合わせた連続世界一の記録は「16」で止まった。天国の父栄勝(えいかつ)さん(享年61)に金メダルを誓ったが、力の衰えは隠せず。日本協会の若返り策もあって、このまま第一線を退くことが濃厚になった。

 吉田沙保里と苦楽をともにした栄和人チームリーダー(56)は「金以上の銀メダル」と言った。至学館大を率い、後輩の面倒を見、今大会ではコーチ陣と選手のパイプ役としても活躍。登坂を始め、土性や川井ら子どものころに吉田に憧れた選手が、その背中を追って金メダリストになった。「金4個は沙保里のおかげ」とも話した。

 五輪の時しか注目されなかったレスリングを、メジャーにした。スポーツ界を代表するアスリートとしてテレビに露出し、レスリングの普及に努めた。知名度では今大会日本人選手NO・1。目立つことが好きではない伊調は「沙保里さんがいなかったら、今の女子レスリングはないし、私もいない」と話していた。

 代表を学生とOBで独占した至学館大の谷岡学長は「部を強くしたのは、沙保里」と話す。栄監督の指導力は認めながらも「監督は指揮者、沙保里はコンサートマスター」と表現。「どんなにいい指揮者も、コンマスがいなければオーケストラは成り立たない。栄監督の力だけでは、強くはならなかった」と話した。

 日本協会は吉田の功績をたたえながらも東京五輪に向けて代表を若手に切り替えることを決めている。たとえ選考会で勝っても、17、18年の世界選手権には吉田と伊調は派遣しない。それでも、吉田の存在は日本の女子レスリングに必要。谷岡学長も「沙保里が残るなら、どんなポストも用意する」とまで言った。

 銀メダルに終わっても、吉田の功績は色あせないし、これからも光を放つ。【荻島弘一】