東京オリンピック(五輪)の女子マラソン代表に内定している鈴木亜由子(28=日本郵政グループ)が27日までに取材に応じ、今を語った。

1月に右太もも裏を痛め、その回復途上の時に、五輪の延期が決まった。新型コロナウイルスの被害拡大には心を痛めながら、準備期間が増えたことは前向きに捉える。読書から得た知識で、新たに呼吸を見直し、ダンスもメニューに導入。来夏の札幌で力を出し切るべく、過ごしている。

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電話口の鈴木は丁寧に現状を語った。まだグラウンドは使えず、寮や公園が練習場所という。

鈴木 まずは筋力を戻す。トレッドミルで走ったり、補強、ウオーキング、体幹と地道な基礎作りです。

1月下旬に右太もも裏を故障。「万全で挑めるか?」と懸念する関係者もいた。リハビリ最中に東京五輪が延期に。どう受け止めたのか。

鈴木 確かにすごく余裕あるスケジュールかと言われれば、そうではないという気がしてました。もちろん8月に合わせる気持ちでやっていたのですが。延期され、準備期間をしっかり取れるという意味では、前向きに捉えています。

今だからこそ己とも向き合う。1カ月前、部屋の本棚にあった1冊を手にした。「能に学ぶ「和」の呼吸法 信長がストレスをパワーに変えた秘密とは?」(祥伝社)。あらためて読むと、今に生きるヒントがあった。能のように、ゆったりリズミカルに吐く呼吸は不安やストレスを減らす効果があると書かれていた。

鈴木 織田信長が戦の前に能を舞い、不安な状況下、ストレスを大きな力に変えた話から始まる本なんです。心臓とかは自分でコントロールできない。でも呼吸は無意識であり、コントロールもできる半々な部分。うまく息を吐くことで活気につながり、ストレスも軽減できる。実証されているようで、試合で力を出すためにも取り入れました。

地元五輪、注目度の高いマラソン代表。その肩書を2位だった昨年9月のマラソン・グランドチャンピオンシップ(MGC)から背負う。5000、1万メートルで挑んだリオ五輪時とは少し違う。

鈴木 リオは6月に代表に決まり、8月が試合。東京は延期になり、間が長い。どんな心持ちで過ごすかで、本番のパフォーマンスも変わる。地に足がついた状態で、準備を進めたい。

ダンスも新たに導入した。「インターロックエクササイズ」という柔軟性、体幹を強化できるものだ。

鈴木 チームメートの花ちゃん(関根)は何をするにもリズムを取るんです。私と反対で柔軟性があり、体の使い方が上手。柔軟性を高めて、パワーにつなげたかった。ダンスがそのきっかけにならないかなと。

基本的には部屋で、「2、3日に1度」行うという。「ビートを感じ、体幹から動かす。ぎこちなく、恥ずかしいので、人のいない時にやってます」と笑う。

コロナ禍の終息を願い、五輪へ進む。MGCで、わずか4秒差競り勝った3位の小原は補欠に回った。

鈴木 本当に少しの差。五輪を走れることに喜びを感じ、力を発揮したいです。すべてを乗り越えないと本番に立てないとも実感してます。スタートラインに立った時はいろんな思いが湧き、たくさんの感謝も思い出すと思います。

本番までに1度、フルマラソンを走る計画もある。リオ五輪は左足痛で1万メートル棄権など不完全燃焼。今度は出し切る。【上田悠太】