星槎道都大留学生ブータン初五輪出場へ柔道一直線

東京五輪出場を目指す星槎道都大柔道部のブータン人留学生キンレイ(左)とタンディン(撮影・浅水友輝)

異国の地で、東京オリンピック(五輪)出場を目指している。星槎道都大のブータン人留学生タンディン・ワンチュク、キンレイ・ツェリン(ともに2年)は柔道部に所属し、大舞台を目指している。2人は星槎グループの奨学金で昨年来日し、19年世界選手権(東京)にも出場。北海道で鍛錬を積み、国際オリンピック委員会(IOC)が認める特別枠で、柔道ではブータン初の五輪出場を狙う。

「SEISA」の刺しゅうが施された真っ白な柔道着。タンディンとキンレイは厳しい稽古で汗を流す。来日2年目の春。タンディンは「日本の選手のビデオは見ていた。柔道をするために、日本に来たいと思った」。キンレイも「ブータンは(対戦する)人が少ない」。柔道母国・日本の充実した環境で、五輪出場を夢見ている。

ヒマラヤ山脈の東端に位置するブータンで、柔道の歴史が始まったのは2010年。標高2300メートルの首都ティンプーにある学校の敷地内に、初めて道場が作られた。「ダイエットのために始めた」と笑うタンディンは、日本から来た指導者に教わり、リオ五輪73キロ級金メダルの大野将平(28=旭化成)の動画を見て憧れた。昨年4月、幼なじみのキンレイとともに星槎道都大に入学した。

同大を運営する星槎グループは、支援を必要とする途上国から選手を受け入れている。ブータンのほかに、エリトリアやミャンマーからも留学生を招き、各競技での五輪出場を後押ししている。授業費や生活費など金銭的援助だけではなく、生活面でもサポート。日本語を指導する同大国際交流センターの佐藤恵利さん(40)は「(2人は)真面目で授業態度はすごく良い。(提出課題の)日記や会話でも教わったことをすぐに出す。目に見えて成長がわかる」と話し、長期休暇中にも学習指導を行ってきた。

今ではチームメートとも日本語で会話。日本の歌も歌える。タンディンは「昔、先生から聞いて覚えていた乾杯の歌を歌う。長渕(剛)さんの」とにやり。友人もでき、充実した生活を送る。

柔道部の中川純二総監督(61)は「2人とも一生懸命やっている」と練習姿勢を評価する。来日当初は日本語での指導やブータンよりも長い練習時間に戸惑いもあったというが、「あまりできなかった技とかが今はできるようになった」(キンレイ)。上達することが、何よりも励みになった。

東京五輪に出場するためには、IOCの特別枠がブータンの柔道に割り振られ、同国代表に選出されることが条件。73キロ級のタンディン、66キロ級のキンレイはともに、昨年8月の世界選手権に出場(初戦敗退)。12月の南アジア競技大会(ネパール)では銅メダルを獲得し、同国の中ではトップクラスの実績がある。東京五輪は1年延期となったが、2人は「いっぱい練習をして力をつけたい」と声をそろえる。将来の夢は指導者になること。母国で柔道を広める大志を胸に、北海道から挑戦を続ける。【浅水友輝】

◆星槎グループの取り組み 2000年代にサッカーの留学生を初めて迎えてから、発展途上国の留学生を数多く受け入れている。現在はブータン7人、エリトリア4人、ミャンマー3人の計14人を受け入れ、スポーツ以外の分野で活躍する2人を除き、競技別では陸上短距離1人、同長距離4人、柔道2人、アーチェリー2人、空手3人。留学生は星槎道都大のほか星槎大、星槎国際高で学び、独自の奨学金で授業料や生活費の援助を受ける。

◆ブータン王国 通称ブータン。南のインド、北の中国に挟まれた高地で国土の約7割が森林地帯。面積は九州とほぼ同じ3万8394平方キロメートル。首都はティンプー。外務省のホームページによると、人口は約75万4000人。19年の在留邦人は130人、18年の在日ブータン人は836人。民族はチベット系、東ブータン先住民、ネパール系など。宗教はチベット系仏教、ヒンズー教など。主要産業は農業、林業、電力。経済発展よりも、人々を幸せにすることが国の重要な使命として「国民総幸福量(GNH)」を導入している。昨年8月には秋篠宮ご夫妻と長男悠仁さまが訪問したことでも話題になった。過去の五輪代表は21人(男子8、女子13)で、アーチェリー19人、射撃2人。