東京五輪エース候補小川航基と足立佳奈が異色対談

対談を終えボールを手にポーズを決める足立佳奈(左)とマイクを手に笑顔の磐田FW小川航(撮影・滝沢徹郎)

サッカー東京オリンピック(五輪)のエース候補と音楽界の新星の異色対談が実現した。

J2ジュビロ磐田FW小川航基(22)と、等身大の歌詞で同世代に人気のシンガー・ソングライター足立佳奈(20)。足立が19年に磐田のシーズンソングを担当した縁で、作詞を手がけるほどの音楽好きの小川と対面。将来性豊かな2人が音楽やライブ、東京五輪への思いなど語り尽くした。【取材、構成・岩田千代巳】

小川は昨年12月の東アジアE-1選手権・香港戦で日本代表初先発でハットトリックを達成。その勢いのまま、今季も開幕のモンテディオ山形戦で2得点と最高のスタートを切った。新型コロナウイルス感染拡大で、現在リーグ戦は休止中も、現在は再開に向けて、可能な限りの調整を続けている。

小川 みんな試合前は、テンションを上げる感じの曲を聴いてますが、自分は関係なくて。しっとり系や恋愛系も聴くんです。足立さんの曲はリラックスさせてくれますよね。僕が一番最初に足立さんを知ったのは話題になった「キムチ~笑顔の作り方~」。あれ、いいですね。笑顔にさせてくれます。

足立 あれは、夜中にキムチが食べたくなって。いつもキムチが置いてある所になくて悲しくって。感情が動く時に、鏡の前でギターを弾きながら歌うんですけど、それで、悲しいはずの自分が「キムチ」と口ずさむと鏡の中で笑っていたのがあって。「あっ、これは魔法の言葉だ」って。それでできた曲です。

小川 それはすごい…。そういうので「ポッ」と出てくるんですね、歌詞とか。

足立 うわさによると、小川選手も詞を書いてるとか。

小川 代表で海外に行くと、外出も禁止ですごく時間があるんですよ。携帯電話をいじるのも飽きて、同部屋の(GK)小島亨介と「歌詞つくろうか」って。彼は歌もうまくて曲を作るのもうまくて。片思いの切ない系の曲を(笑い)。結局、全然、うまく書けなくて。

足立 実体験?

小川 実体験ではないですが想像で。一時期(DF)杉岡大暉とかの応援歌とか作ったりもして、趣味になりかけたんですけど、できなさすぎてやめました(笑い)。だから、足立さんはすごいなと。パッと思い浮かぶんですか?

足立 パッと思い浮かぶときもあれば、あとは、電車に乗っていてすごく雰囲気のいいカップルの方を見かけて「あっ、これいいな」と思って、自分でその方たちの想像をふくらませて書いたりとか。実体験も書きます。

小川 すごいなあ。僕は結構、歌手にあこがれていて。尊敬しているんです。自分、サッカーやっていなかったら、本当に歌手になりたかったんです。

足立 なんで歌手にあこがれてるんですか?

小川 そもそも、歌は下手なんですけど、ライブをしてみたいというのがあって。

足立 カラオケでは何を歌ったりしますか?

小川 清水翔太さんとか。まじで、あの歌詞と声はずるいです。清水翔太さんの曲を入れれば、みんなが「ああ、いいねえ」みたいになる。自分が入れた曲で反応してくれるのがうれしいんです。

足立 同世代あるあるですね。

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2人の話は「ライブ」へと展開する。サッカーではライブは試合、音楽ではコンサートだ。足立はサッカー観戦から感じたことを小川に聞く。

足立 あんなに広い芝の上で、ずっと走り続けて守り続けて。いい声援の時もあれば、時には「ああ…」というため息もある。そういう時、どういう気持ちなんですか?。

小川 自分は言われちゃうタイプなんですよ。FWというのもあるし、目立ちたがり屋でアンチが多くて。SNSのメッセージでよく「お前、髪いじりすぎ。髪いじる暇があったら練習しろ」とか、しょっちゅう来ます。ヤマハスタジアムはスタンドが近くて「なんだお前、こんなんじゃ代表いけねーよ」とか聞こえてくる(笑い)。でも、自分はそういうのも結構好きなんですよ。

足立 えっ、好き?

小川 言われるのも好きで。自分にプレッシャーかけてそれを楽しむタイプですね。

足立 すごい。私は結構、落ち込んじゃったりして、でも、落ち込んだのが歌詞になるという。どんな感情も私にとっては歌になるからいいんですけど、そんな前向きにはなれないかな。

小川 僕は変わってるのかな(笑い)。音楽のライブは1人じゃないですか? 歌詞間違えたりします?

足立 します(笑い)。私の場合、ライブではバンドメンバーがいてくれるんです。ちょっと分からなくなったら、バンドメンバーに話をふっちゃったりとか。基本的には、お客さんも、私のことを好んで来て下さっているからなんか、アットホームな感じがあるので怖くはなかったです。

小川 ライブは絶対に気持ちいいですよね。

足立 最後は最高の景色が見られる。来て下さる方が来て幸せだなと。涙流して聴いてくれる女の子とか見れたりすると、曲の歌詞が伝わっているんだなと初めて感じてうれしい。シュートを決める時の方が気持ちいいのでは? 代表でのハットトリック、見ました。そういう時、次の点もいけるというのがあるんですか?

小川 何かありますね。その日ポンポンって点を取ると、今日あるな、みたいな。しかもデビュー戦だったので。そういう時に取れるのはいいですよね。

小川は、昨夏のトゥーロン国際大会決勝・ブラジル戦など、少ないチャンスの中でも決める勝負強さを持つ。

小川 なんか、点は取るんですよね…、何なんですかね…。日ごろの行いがいいんだと思います。

足立 日ごろは何をしてるんですか?

小川 中学も高校も試合前に「ゴミとか拾いなさい」と言われてきたことがあって。今も、それを思い出して拾って捨てたら、ポストに当たってはじかれるか入るかの境で入ったりとか。そういう運もそういうところからきてるからやれと言われて。開幕戦も、ペットボトルが「燃えるごみ」に入っていて。ゴミ箱に手を入れて正しい方に捨て直したら、(今季の)開幕戦、ごっつぁんゴールがこぼれてきました。

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東京五輪は新型コロナウイルスの影響で1年延期になった。全体練習がストップしているが、小川は体幹やチューブトレーニングなど自宅でできるトレーニングを続けている。年齢制限はU-24に変更される可能性が高く、小川は「1%でも可能性があるなら」と揺るがない。

足立 小川選手と話していると、ちゃんと言葉にして言って、自分の気持ちも高めて実現されてる。そういうことって大事なのかなと。今日お話しして思いました。

小川 人間、自信ない部分ってどうしてもあるじゃないですか。でも、自分は点が取れていない時もプラスのことしか言わないようにしています。メディアに「今、点が取れていないですけど」と聞かれても「何も問題もないです」と、落ち込んでいるときでも前向きに言うようにしています。マイナスは見せないようにしてます。自分は、ですけどね。

足立 自分は20歳になって、ちゃんと、できることしか言わないようにしなくちゃと思っています。挑戦は大事だけど、無責任に「やります」ではなく、本当に自分がそれを達成できるのかは考えて話すようにしています。

小川 しっかりしてますね。20歳か…2年前か。

足立 2年前はどうされていましたか?

小川 フワフワしてました。プロに入って、試合も出られなかったですけど…。きつかったですね。試合に出られないのは、こたえますね。何かに当たりたくなりますもん。やっぱり。誰かのせいにしたくもなるし。まあ、自分に目を向けないといけないですよね。ダメなときに、どれだけやっていられるかが一番大事。試合に出られなかった時期に、腐らずにしっかりとやっていられるかは、今後、全然、違ってきますね。腐ってしまう選手はそこでだめになる。本当に、怒り、反骨心だけでやっていた。

1年延期になったとはいえ、東京五輪出場のチャンスは消えていない。

小川 五輪で活躍できる人って、限られているというか。自分は結構「バカみたいなヤツ」しか、そういうところで点が取れないと思ってる。本田圭佑さんが「馬鹿者よそ者しか世界は変えられない」と言っていたんですけど、それは信じてます。代表は18人。狭いですよね。そこがゴールではないですけど、ちゃんと選ばれて点を決めないと。

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1時間以上にわたった対談。小川はかつてギターに挑戦したことを明かし、今後はピアノとバイオリンに興味を持っているという。足立が小学校4年の時に詞を書き始め、好きな男子への告白も歌で気持ちを伝えていたことを知ると、小川はビックリ。

小川 自分は、チャレンジしたけど、全然できなかった、作詞…。

足立 いつか、詞を見せて下さい。メロディーとか考えずに詞だけもらったら、私、やりたいです、曲。音楽に興味持ってくださっているのは歌をやってる身からするとうれしいです。

サッカー界、音楽界の将来性豊かな異業種対談。東京五輪で小川が活躍した暁には、小川作詞、足立作曲の「珠玉の一曲」が生まれるかも? (対談は4月の緊急事態宣言発令前に行われました)

◆小川航基(おがわ・こうき)1997年(平9)8月8日、横浜市生まれ。神奈川・桐光学園から16年に磐田入団。19歳だった17年4月のルヴァン杯東京戦で大会史上初の10代ハットトリック達成。19年7月からJ2水戸に期限付き移籍。今季から磐田に復帰。昨年12月の東アジアE-1選手権で日本代表初選出、香港戦で代表史上3人目のデビュー戦ハットトリックを記録。186センチ、78キロ。

◆足立佳奈(あだち・かな)1999年(平11)10月14日、岐阜県生まれ。14年、LINE×SONY MUSICオーディションで12万5094人の中からグランプリを獲得。17年8月にメジャーデビュー。インスタグラムなどSNSフォロワーは合計110万超。19年8月にシングル「ひとりよがり」がLINE MUSICリアルタイムランキング1位。20年2月、アルバム「I」を発売。