次のコラムのことを考えていた時「ピザ窯を作ってる選手がいるよ」とうちの旦那様から情報が入りました。「ピザじゃなくて、ピザ…窯?」と聞くと、「ピザも作ってるけど、ピザ窯♪」ということで、行ってきました! ピザ窯職人…ではなくて、福岡支部の桑原啓選手(48)のお宅にお邪魔してきましたよ。

自宅の自慢の窯でピザを焼く桑原啓選手。その姿もさまになっていますね
自宅の自慢の窯でピザを焼く桑原啓選手。その姿もさまになっていますね

熊本県八代市出身の桑原選手。子供の頃から水泳教室に通ったり、中学生になると同級生に誘われてサイクリングをしたり…という少年時代を過ごします。そこから、ロードのプロになりたいという思いが芽生えたそうですが、なかなか情報を得ることも難しい時代。「そしたら僕の父が『競輪選手はいいらしいぞ』と言って本気になったんです。で、試験を受けようと思って調べてたらその横に“競艇”があって、ちょっと試験が早かったんで試験慣れのために受けたら一発で受かっちゃったんですよ。そこから『お父さん、競艇って何?』って福岡ボートに連れていってもらったのが始まりです」と驚きのエピソードを話してくれました。

こうして16歳で合格し、当時最年少の17歳で本栖研修所に入所したと言う桑原選手ですが、なんと「でも、僕2カ月で帰されたんですよ」と、これまたびっくりな話。なんでも、高校への退学届けがうまく受理されていなかったのが原因だったそうですが、「そこから3年くらいは、アルバイトはしてたんですけど、何をしたいとか何になりたいとかがなくて、ぼーっと過ごしてました」とのこと。

「でもある日ふと、本栖から帰る時に教官が言った『お前は99%選手になれる可能性がない』という言葉を思い出して、『ってことは、もう1%あるじゃないか!』と思って試験を受けたらまた一発で受かって…」と70期でデビューとなったいきさつを話してくれました。

桑原啓選手(中央)の周りには、自然と仲間が集まってきます
桑原啓選手(中央)の周りには、自然と仲間が集まってきます

こうして、ボートレーサーとなった桑原選手ですが、「僕がデビューした時は、選手持ちのでかペラの最初の方やったんで、プロペラを追及しないといけない! という考えになったんですけど、いざ作ろうとしても(当時)プロペラ用の道具ってあんまりなくって、選手はみんな試行錯誤してやってたんですよ。もともと道具がないものを作らないといけないというのがその辺から来てて、僕の場合はそれが発展して『ないものは考えてやればいいものができるんだなぁ』っていうのが、今は遊びの方にいってるんですよね」との話が出たところでいよいよ本題へ。

夜の窯は、紫色の炎が鮮やかでロマンチックなムードを演出します
夜の窯は、紫色の炎が鮮やかでロマンチックなムードを演出します

「ところで、どうしてピザ窯作っちゃったんですか?」と尋ねると「実は新婚旅行で行ったイタリアのトスカーナ地方にすごい憧れがあって、そこの暮らしを再現したいなぁ、なるべく自家製のものを使ってピザとかつまみを作りながらワインが楽しめたらいいなぁと思ったのがきっかけです。そのうち子供も一緒に楽しめるような年齢になってきたんで『じゃぁ、外で食べられるようにしようか?!』というところからですね。やっぱり窯もあると楽しい空間になるんで♪」との答え。

「でも、やっぱり元がプロペラ作りからなんでしょうけどね。水泳→自転車ときてこの仕事に入って、プロペラみたいな分かんないヤツが出てきてどんどん発展しちゃいました。まぁマニアックなのは否定できませんね」と笑う桑原選手の優しくって職人さんな楽しさに、たくさんの人が引き寄せられるのが分かる気がしました。

夜になるとライトアップされて、まるでおしゃれなお店のような空間になります
夜になるとライトアップされて、まるでおしゃれなお店のような空間になります

「将来的にピザ屋さんとかは?」と尋ねると、「いろんなお客さんが来てピザ食べて『わぁ、おいしい』って言ってニコニコしてる顔見るとこっちが幸せになる。だから利益というより仕事としてすごくいいなぁと思いますよ」と話した後に「あ、ボートも好きですよ! 好きなんですけど、人と争わないといけないからですね」となんだかどこかで聞いたような言葉(落合純選手の回をぜひご覧下さい♪)も出てきました。

結局は周りの人の喜ぶ顔が見たい! その思いの強さから、妥協なく何でも追及していく姿はボートにもピザ窯にも共通してるんだなぁというのがたっぷりと伝わってきた熱いあつーい熊本の旅でした。

 
 

落ち着く空間にしたいという思いから、壁、上水、下水、電気の配線までご自身で手掛けた桑原選手。「夜、楽しむこととかも多いんでライティングとかもこだわってやりました。メンテナンスフリーで30分で500℃に上がる窯っていったら、なかなかないと思いますよ」というそのこだわりには、奥様も「何でも、ないものを手作りするああいう人に会ったことがないし、多分普通の人はやらないしやろうと思わないことをできるのはすごいと思います。良きパパ、良き家庭人で頼りになります」と太鼓判を押しながら、優しくふんわりと見守っていらっしゃいました。

焼き上がったピザを、待ち構えるお客様にふるまう桑原啓選手
焼き上がったピザを、待ち構えるお客様にふるまう桑原啓選手

奥様もお料理好きで、ソースを作ったりもされるそうですから、たくさんのお客様の笑顔が見られる日もそう遠くはなさそうですね。