先日、開催参加中の選手が競輪場内で静止画や動画を撮影することが全面禁止になった。それに対して選手とファンから不満の声が上がっている。

競輪場の取材規制は、この十数年で大幅に緩くなった。新聞では選手が言っても配慮して書かないようにしていたことが、テレビのインタビューでは普通に流れていて、違和感を覚えることもある。

規制が厳しかった時期からの過程を見ていない人は、今のこの状態が当たり前なのだと思う。

昔はレース前の選手とはあいさつを交わす程度で、雑談でもしようものなら競技会(現JKA)職員が目を光らせて監視していた。徐々に緩和されていったのは、記者がそれなりの節度を保ち、年月を経て信用されていったからだと思う。

ところが、今は多種多様なメディアが現場に入るようになり「OK」と「NG」の境界線が曖昧になっていった。

それでもまだメディアは、これを書いたら誤解されるかな? とフィルターをかけて伝える。

しかし、選手のSNSはダイレクトに伝えてしまいやすい傾向にある。ファンからクレームが入ったり、議論になってしまうケースもたまに見られる。

写真や動画も同様で、選手が撮ろうと思えば、宿舎でも風呂場でも撮れる。もちろんファンにとっては未知の領域を見られるのだから、楽しいだろう。でも、撮られたい選手ばかりではないし、見る者によからぬ誤解を生む可能性もある。

新型コロナウイルスの影響で開催が中止になっても何の補償もない選手たちが、現在は自発的にSNSでファンサービスを行っている。それを突然「撮影は全面禁止」と言われて不満が爆発する気持ちはよく分かる。利益が発生しない個人のSNSに載せるだけなら、その主張はきっと正しい。

しかし、広告収入などで金銭が得られる可能性があれば、話は変わってくる。通常、一般人の顔が映る場合は同意書にサインをもらってテレビなどは放送される。許可のない人へのモザイク処理も必要だ。競輪場に撮影許可も取らなければならない。

さらに、視聴者を飽きさせず、視聴回数を伸ばそうとすれば、内容がエスカレートしてしまう可能性も大きい。今回の規制は、そこにいったんブレーキをかけるためのものと思われる。

選手を縛るだけでなく、選手を守るという側面もあるのではないだろうか。

競走以外でも才能を発揮する選手は多い。深谷知広や根田空史の撮影の腕前は、記者カメラではとうてい追いつけない。

根田空史のカメラの腕前はプロも顔負け
根田空史のカメラの腕前はプロも顔負け

真っすぐなメッセージを打ち出してファンの心をつかんでいる選手も多い。一流選手のトレーニング動画も人気のコンテンツだ。これらは間違いなく業界のPRにひと役買っている。

そういう選手たちの身動きが取れなくなってしまうことは、ファンを落胆させるし、本当にもったいないと思う。

全てを「NG」にしてしまうのではなく、しっかりと選別し、ルールを定めた上で緩められるところは緩めていってほしい。【松井律】