新型コロナウイルス感染拡大対策のため7月から、地区内あっせんに加えてG3、F1のS級戦で7車立てが導入された。

ここまでは「経験や妙技に左右されるポイントが減り、レースが単調になった」がS級7車の印象だった。

しかし、12日のF1静岡決勝で、2人のベテランマーカーがその印象を変えてくれた。

番手職人の武井大介は平常心を貫く
番手職人の武井大介は平常心を貫く

まず、7車立て初体験の武井大介(39=千葉)は「自分の持ち場で頑張るしかない。(2着権利の)勝ち上がりを意識するよりも、まずは自分が納得のいく走りができるかを大事にしたい」と、レースに臨む気持ちは変わらないと強調していた。

自力型を大事にする渡辺晴智は南関別線のやりにくさを痛感
自力型を大事にする渡辺晴智は南関別線のやりにくさを痛感

地元の大看板である渡辺晴智(46=静岡)は「こうやって開催してくれるだけでもありがたい」と前置き。しかし、地区内あっせんには抵抗を感じていた。「やりづらくないわけないでしょう。本当なら南関でまとまりたいところでも、7車で4番手はチャンスがないからね。今は仕方ない。3カ月の辛抱ですね」と複雑な胸中を明かした。

決勝は渡辺の言った通り、南関からは4車が勝ち上がったものの、堀内俊介-渡辺と、染谷幸喜-武井にラインが分かれた。人気を集めたのは、113期の真杉匠-黒沢征治。ファンの支持もやはりスピード重視だ。

しかし、レースではベテランの経験が勝った。正攻法の染谷が真杉の上昇を突っ張ると、武井は巧みなブロックで番手回りに不慣れな黒沢を翻弄(ほんろう)した。真杉と染谷の意地の張り合いは長引き、漁夫の利を得た堀内が豪快にまくる。最後まで堀内を信じて付いていた渡辺が差し切り、10年ぶりの地元V。大立ち回りの武井も3着に食い込み、復活を印象づけた。

2人のベテランの色あせない動きは、静岡競輪場に集まった4260人のファンを酔わせた。7車立ての中にも確実に漢字の「競輪」は生きていた。【松井律】