これまでファイナンシャルフェアプレー(以下FFP)の導入が及ぼしている影響についてお話しさせて頂きました。その中で現在業界のニュースを騒がせているパリサンジェルマン(PSG)。UEFAによるファイナンス面のメスから逃れることができるのか、今回はこの背景を少しのぞきたいと思います。


PSGはここ数年、多額の投資により選手補強を行っているチームの1つでもあり、当然そのお金はどこから出てきているのか?という部分ではFFPが目をつけないわけはありません。

それまでの史上最高額の倍を軽く上回る2億2200万ユーロ(当時のレートで約290億円)という巨額マネーでブラジル代表FWネイマールをバルセロナから引き抜きました。さらに移籍期限最終日には、レアル・マドリードと争ったという話もありましたが、モナコから今年のW杯でも活躍したフランス代表FWキリアン・エムバペを1年間のローン(レンタル)で獲得し、その後、1億8000万ユーロ(同約235億円)というこれもまた想像をはるかに超える大きな金額で買い取りました。

この金銭の出元は、皆様もご存じであると思いますが、カタールになります。カタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)という投資機関を通してカタールの国そのものが投資しているというプロジェクトになります。

カタールは天然ガスが豊富で、近年の価格の高騰によって財をなしており、基本的にはこれがベースになっています。外交政策のメインとして2000年に入ってから中国同様、スポーツに国として力を注いできました。

現在はマンチェスターCの監督を務めているグアルディオラも、選手としてはバルセロナからイタリアなどをへて、晩年はカタールで過ごしています。この関係からカタール航空がバルセロナのメインスポンサーになったとも言われておりました。

これらは全て2022年に開催されるW杯開催のためであったと言われております。W杯の開催が決まれば当然放映権も獲得することを考えます。まさにこれを落札したのはカタールのテレビ局であるbeINスポーツで、この会長がPSGの会長でもありました。

PSGはフランスを代表するクラブで、当時の大統領サルコジ氏は大ファン。さらにはQSIを立ち上げたのは現カタール首長…。さらにさらに、当時のUEFA会長はフランス人のミシェル・プラティニ…。

このあたりに並べられた材料を見る限り、カタールがW杯開催獲得のためにフランスを通じて世界のフットボールの中心であったUEFAに便宜を図り、裏で見返りを得ていたとされても決しておかしくはないように感じます。

FIFAの汚職事件にフランスとカタールのこの約15年間にわたるスポーツを通じた急接近から察するに、何らかの形でメスが入るのは時間の問題であるとも言われています。その対応方法を予測するようなニュースが報道されることも自然な流れかもしれません。

現地で報じられているニュースを見る限り、PSGの債務は想像を超えており、これは選手獲得からくるものとみられているようです。ネイマールもしくはムバッペといった超目玉選手が売り出されてもおかしくはないと報じられるだけでなく、他にも主力級を数名売却する必要性があるのではないかとの報道もあります。

ロナウドを売却して若干の余裕があるとみられるレアル・マドリードが本当にこれらの選手を取りに行くのかどうかにも注目が集まるところですが、まずはFFPを確実にクリアすることが先決であるように感じます。はたしてビッグネームの移籍は実現するのでしょうか。


次回は移籍市場の最新情報をクラブの財政情報と共にもう少し深掘りして見たいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)


※ファイナンシャル・フェアプレー=UEFAが2014年から導入したクラブ経営健全化を図る規則。クラブに規定の額を超える赤字があった場合、CL出場権剥奪などさまざまな罰則が科せられる。