日本代表の活動は年に5回しかない。国際サッカー連盟(FIFA)が定めているインターナショナルマッチウイークが5回しかないからだ。

 全ての国がこのウイークに1、2試合のマッチデーを入れ、W杯の予選や親善試合を組む。日本代表に海外組が半数以上になり、この世界ルールを踏まえてマッチメークする必要が出てきた。国内組しかいなかった時代はJリーグと調整し、親善試合ができ、遠征にも行けたのだが、今はそういう時代ではなくなった。

 今回のシリア戦。形式はフレンドリーマッチであったが、彼らのテンションは公式戦のように熱かった。そこに価値がある。公式戦同様、フィジカルに優れる彼らが激しく厳しく、時に汚くプレスに来たし、日本に対してリスペクトしすぎず、闘志を前面に出して戦ってくれた。露骨な時間稼ぎをするのも予選と同じ。最後は、アウェーで引き分けOKという試合の締め方も、きっちり中東のチームらしかった。日本にとって結果より、その過程がいいシミュレーションになった。経験値がプラスになるし、本番のイラク戦に向けて緊張感も高まる。「前半の攻撃が停滞した。前後半の入り方に問題があった。デュエルに負けていた」などの批評はあるが、それも全て相手あってこそなのだ。こういう試合こそが予選最中のあってしかるべき親善試合だと思う。

 親善試合で、過去に世界的な強豪国が来日したことは何度もある。しかし、観光気分だったり、ベストメンバーで来なかったりと、日本の立ち位置からすると真剣になってもらいにくい。なので最近は、アジアで真剣に戦ってくれる国、中南米で手を抜かない国、というマッチメークを心掛けてきた。アウェーで戦ったイラン戦もそうだった。今回のシリアも興行的にはビックネームではないが、彼らも日本戦の後にマレーシアで中国とW杯予選を戦うという設定があり、お互いのために真剣に戦える条件があったので、緊迫した試合になったのだ。

 アジアの格下と評される国には「いつも3-0で快勝できる」という期待は持っていただいてもいい。だが、実際には目の前の勝利よりも次の本番に向けてどんな準備になるかが現場は大切だ。緩い相手に楽勝しても、気が緩んだりと、結局マイナスになることもある。

 昔と違い、日本もだいぶ、親善試合の相手としてはリスペクトされる時代になった。それは、アギーレやバヒド(ハリルホジッチ)ら代表監督を探す時にも感じていたことだ。でも地理的に遠すぎるのも現実。時差もあり、移動に15時間以上もかかってしまうのは、日本人選手でさえコンディションが難しい。アジアを勝ち抜くまでは、名前や興行より、実を取る。そしてW杯が決まれば、アウェーに出向いて欧州や南米の強豪に腕試しする。地理的なハンディ、アジアの試合数の増加を踏まえて、新しい強化策、マッチメークが必要な時代になってきた。

 シリア戦を見ていて気づいたことがある。親善試合とはいえ、キャプテンのマヤ(吉田麻也)が常に審判にアピールをしていた。シリアの選手が痛くもないのに倒れるごとに、プレーをしよう、時間稼ぎを認めないでほしいと言っていたと推測する。ロスタイムが3分だったにもかかわらず、実際はレフェリーが5分以上もとってくれたのは、勝利への執念をみせたこういう地道なアピールがあったからだと思う。残念ながら勝ち越しゴールは奪えなかったが、小さなディテールも公式戦には必要な意識だ。

 全てのマッチメークは、絶対に負けられない一戦に勝つためのもの。準備は終わった。イラク戦の必勝を祈る。

(霜田正浩=ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)