昨年の12月15日、都内の民放連の会議室では民放4局が「運」を争っていた。

 ロシア大会全64試合のうち、過去ワールドカップ放送で大きな実績を持つNHKが半分の32試合を持ち、民放への割り当ては32試合になる。日本の第2戦セネガル、第3戦ポーランド、準決勝、3位決定戦などの中継カードをめぐり、各局の代表者による抽選が行われていた。

 テレビ東京は「編成上の理由」として中継から撤退し、参加は日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日。中継カードを選ぶ順番を決める抽選では日本テレビが1番くじを獲得。2番はフジ、3番はテレ朝、4番はTBSだった。

 民放にとって大きな収入源となるゴールデンタイム(午後7時から同10時)、プライムタイム(午後7時から同11時)のレギュラー番組には、CMを出す大企業(提供スポンサー)がほぼついている。民放関係者は「午後9時、午後11時キックオフの試合を放送すると、通常のレギュラー番組の収入を捨てなくてはいけない。W杯の試合で新たにCMを付けるが、放送権料が高すぎてどんなに視聴率が獲得できても黒字になりそうにもない」と明かす。

 しかも午後9時、午後11時開始の試合は、試合前後の1時間、合計2時間のハイライト番組をつけるルールが設けられている。関係者は「サッカーの試合だけでは流すCM量に限りがある。前後にハイライトをつけることでよりたくさんのCMを流せる。それが理由では」と推察する。逆に深夜3時開始の放送では、提供スポンサーがほぼついておらず、W杯を放送しても収入減の痛手は少ない。また高い視聴率が見込まれないため、ハイライト番組もない。優先順位の1番、2番を引いても、収支から日本戦を獲得すべきか議論になった局もあったほどだ。

 1番くじの日テレは日本の第2戦セネガルを獲得。2番フジは日本の第3戦ポーランドを選んだ。テレ朝はブラジル対コスタリカ(6月22日午後9時)、TBSは準々決勝(7月6日深夜3時)を1巡目で選んだ。2巡目からは不規則だ。日本戦を獲得できなかった局への救済措置として3番テレ朝、4番TBSの2局が優先的に5カードを交互に選ぶ。そして32番目の残りカードは、1番の日テレが獲得する決まりだった。

 「視聴率3冠」と勢いのある日テレが1番を引いた瞬間、他局は「日曜午後9時の試合は最後まで残して、何としても日テレに取らせないと」と思い描いた。コスタリカ対セルビア(6月17日午後9時)である。日曜午後8時からは日テレの高視聴率番組「世界の果てまでイッテQ!」「行列のできる法律相談所」が続く。ここにW杯放送を取らせ、ハイライト番組を含めこの2つのレギュラー放送を飛ばしたい…。だがフジが早い段階でコスタリカ対セルビアを選んだことで、このもくろみは消えた。

 日テレは日本戦以外、すべて深夜3時の試合を選ぶことに成功。テレビ関係者は「一番経費を削減するには、テレ東の選択が一番。次に深夜の試合で日本で実況をつけるやり方。日本戦以外、深夜を選んだ日テレは収入的に正しい。好調なレギュラー番組の収入を捨てずに済んだわけですから、やはり(運を)持ってるとしか言いようがない」と脱帽した。【岩田千代巳】