高校サッカーの名門・神戸弘陵(兵庫)を今春卒業したMFで主将だった沖吉大夢(おきよし・たいむ)さん(18)は現在、神戸市内の居酒屋でアルバイト生活を送る。今冬の全国高校選手権でベスト16進出に貢献。3試合で3得点を記録した司令塔は大会優秀選手に選ばれ、日本高校選抜候補にも入った。

そんな実力者がこのほど、米西部ユタ州のソルトレークコミュニティー大学へ、今秋から2年間留学することが決まった。渡米を決意したのは1年以上前。国内の有力大学に推薦合格できるほどだったが、退路を断って自らの夢を優先した。

現地では英語を学びながら競技を続ける。将来の夢はプロサッカー選手や実業家になること。自分の限界を決めずに、ビジネスを含めてあらゆる分野に挑戦をしていく。ある時、こんな文章を自らのツイッターに投稿していた。

「日本から出た人がよく『日本の良さが分かる』って言うけど、俺は海外に行くたびに、さらに『日本って面白くない』って思う派やねんけど。何でもそろってる、どこでも安全、何不自由ない、ルールだけがやたら多い、これが生きててめっちゃおもんない」

既存のルートで国内の大学に進まなかった理由の1つがここにある。

このチャレンジ精神は分かっていても、簡単にできるものではない。もちろん、ここに正解や不正解もなく、個人の価値観である。だから理解というより、記者が抱くのは「あこがれ」に近い感覚だろうか。

沖吉さんとは先日、高校選手権の取材以来、約3カ月ぶりに話す機会があった。今は新型コロナウイルスの影響で、みんなが身動きとれない状況になっているが、彼はどこまでも前向きだった。

「僕は今のところ何も影響ないんです。それより高校の下級生は公式戦が中止になったり、夏の高校総体はどうなるかも分からない。大学に進んだ同級生は春のリーグ戦が中止になった。コロナ問題がなくても僕は留学前のこの時期、日本で英語の勉強をするだけでしたから」

沖吉さんは高校卒業前の2月、地元Jリーグのヴィッセル神戸が天皇杯で初優勝した祝賀会に参加していた。MFイニエスタやDF酒井高徳らの前で、高校から代表して祝福のスピーチをした。帰り際、わざわざイニエスタが記念写真に応じてくれたという。

「何もしゃべることはできなかったけど、イニエスタ選手は優しく対応してくれた。酒井選手も新型コロナウイルスに感染してしまったけど、本当にプロフェショナルな人だし、これからも地元の神戸を応援していきます」

そういう沖吉さんからは、イニエスタとの記念のツーショット写真を送ってもらった。まぶしいほどの可能性を秘めた18歳が、秋に無事に渡米できるよう祈っています。【横田和幸】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「現場発」)

◆横田和幸(よこた・かずゆき)1968年(昭43)2月24日、大阪府生まれ。91年日刊スポーツ入社。96年アトランタ五輪、98年サッカーW杯フランス大会など取材。サンフレッチェ広島、ガンバ大阪などJリーグを中心にスポーツ全般を担当。