<高校サッカー:市船橋2-1四日市中央工>◇9日◇決勝◇国立

 頼れるキャプテンが、名門を復活させた。市船橋(千葉)が四日市中央工(三重)を延長戦の末下し、9大会ぶり5度目の優勝を果たした。敗色濃厚な後半ロスタイムに主将のFW和泉竜司(3年)がコーナーキックからのこぼれ球を押しこむ同点ゴールに続き、延長後半5分にカウンターから決勝点をゲット。相手の地元四日市から千葉に来た少年が、夢舞台で輝いた。朝岡隆蔵監督(35)は就任1年目で優勝し、首都圏開催となった76年度以降では、史上初の「選手&監督優勝」となった。

 時計表示が消えた。ロスタイムは2分。相手の粘りにゴールが割れない。それでもあきらめず「俺たちは点がとれる」とピッチで声を掛け合う。コーナーキックのボールが誰かにあたる。こぼれた先に10番がいた。和泉は常にこぼれ球を狙っている。「狙っている人にボールがこぼれてくることも証明できた」。

 2点目は技術を見せた。左サイドでパスを受けると、そのまま左足でシュートに行かず、右足を軸にして瞬時に右足へ持ち替える。相手GKの動きを読み、大胆に、力強くニアサイドを狙った。「苦しいときに点を取れるのが主将だから、仕事が出来たと思う」。

 決勝の朝、サプライズが待っていた。監督との打ち合わせがいつもの部屋と違う。スタッフから「ゲストが来るぞ」と伝えられた。

 和泉はOBが激励に来てくれたのかと思った。打ち合わせが終わると3年生全員が部屋に入ってきた。登録メンバーに入れなかった中野が和泉に思いを伝える。「ケガに苦しんで一緒にサッカーできる時間が少なかったけど、お前と一緒にサッカーできて、国立まで連れてきてくれて本当にありがとう」。涙が止まらなかった。3年生みんなのために。仲間を思う気持ちがゴールにつながった。

 和泉のレベルは高く、そして仲間への要求も高く、口調も攻撃的だった。FW岩渕とは練習、試合を問わず言い合い、ぶつかった。「パスミスしたらめちゃくちゃ怒る」と岩渕。後輩も和泉には不満があった。「和泉のチーム」と言われながら、本当の信頼感は芽生えていなかった。

 変化が訪れたのは昨夏の総体。ケガで総体予選を欠場した和泉を、仲間が全国に連れて行ってくれた。和泉は「総体予選で信頼が大きくなった」と振り返る。本大会は初戦敗退。申し訳ない気持ちが仲間への気遣いにつながった。「意見を言えるようになった」と2年のDF小出。先輩後輩の壁は薄くなり、一体感が生まれてきた。

 市船橋が最後に優勝したのは02年度大会。その後は選手権出場を逃すこともあった。名門復活は初優勝のメンバーだった朝岡監督に託された。市船橋をあるべき姿に。自主性を念頭に、選手だけのミーティングをやらせた。和泉は言う。「試合中に自分たちで修正できるようになった。チーム発足時から、監督には優勝できると言われていた」。朝岡監督は現役時代に決勝のピッチに立てなかった。恩返しの思いは3度の胴上げとなった。

 和泉は「三重から千葉に来て本当に良かった」とほっとした表情。市船橋の新しい歴史をつくろう。チームの合言葉をみんなの力で実現させた。【加納慎也】

 ◆劇的勝利

 今回の市船橋のように高校サッカー選手権で「前半1分に先制点を許すも、0-1の後半ロスタイムに同点、その同点弾を決めた選手が延長戦で逆転となる勝ち越し点を決めて2-1で勝つ」というケースは過去に見当たらない。Jリーグでは、95年11月25日の磐田-名古屋戦(2-1)で前半1分に先制された磐田だったが、後半42分(ロスタイムではない)にFW鈴木将が同点ゴールを決めて追いつき、延長後半1分に同点弾を決めた鈴木将が勝ち越しゴールを決めて勝利した、似たような例は過去にある。