日刊スポーツのサッカー担当記者が掘り下げる「Nikkan eye」は、日本代表、U-24(24歳以下)日本代表、女子日本代表の3チームが集中活動した時間を振り返る。5月27日に行われた日本代表のW杯アジア2次予選ミャンマー戦(フクアリ)を皮切りに18日間で9試合。コロナ禍で、各チームを一般社会から隔離する「バブル方式」を実施。徹底した感染対策を講じたが完全に防ぐことはできなかった。開幕が迫る東京五輪に向けたテストケースとしても、リスクが浮き彫りになった。

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セルビア代表監督として来日した「ピクシー」ことストイコビッチ監督は11日の試合後、こう話した。「すぐ家に帰りたい」。バブルのストレスを言葉にした。「ホテルから全然外出できないのは、異常な状態だった」。厳しい防疫措置だった。検査も厳重。入国までの72時間以内に陰性証明、さらに入国後から3日目まで陰性でなければ試合出場は不可とされた。

想定外のことも起きた。ジャマイカ代表の複数選手に陰性証明書類の不備が指摘され、入国が遅れて日本代表戦が中止に追い込まれた。結果的に日本代表とU-24日本代表の兄弟対決が実現し注目を集めるも、オーバーエージ組が出場しないなどガチンコ対決とはならず。急な決定で、五輪代表の準備が間に合わないのは当然のことだった。

そして最も痛手だったのはバブル内にあったタジキスタン代表からコロナ陽性者が出たこと。3日に来日し、9日の検査で陽性者が出た。日本代表の森保監督が「ほぼ閉じこもる生活。選手はかなりストレスがあった」と明かすほどの制限下でも、リスクは拭い切れないことが示された。

キルギス代表もコロナに襲われた。入国初日の検査で1人が陽性となり、来日した39人のうち19人が濃厚接触者と指定された。うち5人が選手で試合にエントリーできなくなり、GK全3人が入っていた。日本で集中開催したW杯アジア2次予選では7日のモンゴル戦でDF選手がGKを務め、0-1で敗戦。11日のミャンマー戦ではFWの選手がゴールマウスに立った。本来の力を出せなくなったのは明白だった。またU-24ガーナ代表でも入国の際に陽性者が出ている。約40時間のフライトをともにした来日メンバーは、機内の席を離していたなどのチームの説明を理由に濃厚接触者には認定されなかった。

スポーツ界のコロナ対策では、野球とともに先頭を走ってきたサッカー界。それでも、陽性者は出た。東京五輪の規模は、今回の比ではない。同じようなことが、選手村で起きる可能性は決して低くないのではと考えざるを得ない。

そうしたリスクの中で開催された9試合のうち、強化として実りある時間はどれほどあったか。日本代表がW杯アジア最終予選への進出を着実に決めたのが収穫。一方で、その後は15日のキルギス戦も含めて格下との消化試合に終始し、唯一の格上であったセルビアはベストメンバーを招集していなかった。

U-24日本代表も五輪に出場するチームとの試合は実現できず。女子は気温33度のデーゲームをウクライナと行い、ジンチェンコ監督から「技術の差がありすぎる」「この暑さの時間帯でやるのは理解できない」と、力関係も環境も不適切だと不満をぶつけられた。

今回の活動は代表チームの強化を第一の目的としつつ、コロナ禍でも万全の対策を講じれば安全な開催が可能であることを示す場でもあった。2つの目的がともにどこまで果たされたのか、疑問は残る。【岡崎悠利】