新エース久保、本田押しのけ急上昇にも「まだまだ」

日本対タイ 後半、ゴールを決め原口(左)と喜び合う久保(撮影・山崎安昭)

<W杯アジア最終予選:日本4-0タイ>◇B組◇28日◇埼玉スタジアム

 日本(FIFAランク51位)が、W杯ロシア大会アジア最終予選でタイ(同127位)に4-0で快勝した。売り出し中の久保裕也(23=ヘント)が、本田圭佑から右FWの定位置を奪って3試合連続で先発。2-0の後半12分に2試合連続ゴールを決めるなど、3得点に絡む活躍で勝利に導いた。3連勝の日本は5勝1分け1敗で勝ち点を16に伸ばし、6大会連続の本大会出場に前進した。

■「仕掛けよう」と2戦連発

 新年度目前の日本に、新エースが誕生した。久保裕也、23歳。2-0の後半12分に右サイドでスローインを受けると、中央に持ち出してマークを外す。ペナルティーアークで視界が開けると、迷いなく左足を振った。利き足とは逆の左で完璧にボールを制御し、美しい弾道がゴール右上に突き刺さる。「フリーだったので冷静に打てました」。23日UAE戦に続く、W杯最終予選での初得点から2戦連発。史上3人目の記録にも涼しい顔で振り返った。

 前半の2得点も久保からだ。8分のマイナスのパスが岡崎経由で香川に渡り、先制点の起点になる。19分には再び右サイドを破ってクロスを送り、岡崎の頭をとらえてアシストした。2試合連続の1得点1アシストに、1起点。2戦で計5得点が久保から生まれた。

 原口から「サッカーに向き合う姿勢がすごい」と言われる性格は、幼少時代に培われた。柔道、剣道、空手に精通する父と合気道の母。父は厳しく「何度か、本気で死ぬと思った(笑い)。でもサッカーを始めた5歳から、1秒たりともグレる時間がなかった。感謝しかない」。山口・鴻南中時代は朝から隣接する公園でボールを蹴った。この日の得点を生んだ「利き足ではない左足の向上」が目的だ。公園の名は「維新百年記念公園」。今、ハリルジャパンに世代交代の維新をもたらす男の原点だった。

■リオ五輪世代で突き上げる

 A代表には高校3年で初招集。19歳でJリーグ京都サンガFCからスイスへ渡り、人見知りだった性格も変えた。外国人選手を食事に誘い「浮くほど白い歯を見せて話しかけ、自分のことを知ってもらった」。日本代表も同じで「分からないことがあれば聞きに行った」。昨年11月の招集以降、ポジションを奪う形になった本田からの親身な指導に「器がデカい」と感激し、昨年ブレークした清武らロンドン世代から「俺らが活躍しても遅い。リオ組が出てきてこそ世代交代」と聞くと、突き上げる覚悟が固まった。

 「自分たちが上の世代を刺激していく」と志したタイ戦。後半39分に退くと、ハリルホジッチ監督から頭をたたかれ、祝福された。会見でも「この2試合で質の高さを見せ、決定力も示した。若くて良い選手を見つけた。1つの発見。進化に期待している」と絶賛され、ラッキーボーイを超え欠かせない存在になった。

 昨夏のリオ五輪はクラブ事情で出場を断念。声を上げて泣いた日を糧に、笑顔になった。目標をロシアに切り替えたA代表で最終予選3戦2発。あの本田を押しのけ、この日の交代も昨年4戦連発の原口や10番香川の方が先だった。急上昇する序列にも「まだまだ」を連発した新エース。「中心的な選手になりたい。この2試合で終わらないようにしないといけない」と締めくくる姿は、出場最年少とは思えない落ち着きと頼もしさだった。【木下淳】