厳格ハリル監督を動かした長谷部主将の「直談判」

手を振り場内1周する日本代表(撮影・狩俣裕三)

<W杯アジア最終予選:日本2-0オーストラリア>◇B組◇8月31日◇埼玉

 MF長谷部誠(33=フランクフルト)が主将の役目を全うした。3月以来の代表復帰で先発フル出場。3月に受けた右膝手術の影響を感じさせず、所属のフランクフルトで「安全保障請負人」と呼ばれる働きで完封に貢献した。ピッチ外でハリルホジッチ監督と選手との橋渡し役を担うなど頼れる主将は、自身3大会連続となるW杯に向けて「また大きいことをしたい」と、野心をのぞかせた。

 黒星スタートから紆余(うよ)曲折を経て、W杯最終予選を勝ち抜いた長谷部は「とにかく勝てて良かったです」と安堵(あんど)した。「危ない場面でボールを失う場面があり、迷惑をかけましたけど、リハビリの結果が報われてうれしい」と言うと、感極まったような表情を浮かべた。

 ボールを保持する相手にボールを回させ、スキを突く戦術を貫いた。中盤の底から縦パスに目を光らせて危険を察知し、ピンチの芽を摘んだ。「サッカーとしてキレイではないかもしれない。でも、サッカーは結果が正しいので。最終予選の初戦に敗れたチームは(W杯に)行けないというジンクスを覆すことができてよかった」。所属クラブで「安全保障請負人」と呼ばれる働きは健在だった。

 「チームがいかにいい状態で試合ができるか」に心を砕いた。自らに主将というプレッシャーをかけて臨んだという。昨秋、ハリルホジッチ監督の厳しい行動制限と連日の長いミーティングで疲れ果てる仲間をおもんぱかり、直談判に出た。「日本人は言われただけやろうするので、頭がいっぱいになってしまう」と、ミーティングの短縮を要請。試合前の自由時間も要求した。厳格な指揮官に提案を受け入れてもらった。

 3月22日に右膝の手術を受けた。復帰の目標を「8月31日」に定め、6月にユニセフの活動でエチオピアを訪れた際も標高3000メートルの高地でトレーニングを重ねた。オフの期間は週6日のペースでリハビリに励んだ。7月には妻でモデルの佐藤ありさが第1子を出産し、大きな力を得た。

 若手の台頭に「誰1人、W杯に行ける切符をつかんでいない」と、チーム内の競争は覚悟している。約6万人のサポーターには「また大きいことをしたいと思っています」と宣言した。野心を抱き、自身3度目となる本大会に向かう。【岩田千代巳】

 ◆日本の個人W杯出場試合数 98年から3大会連続出場のMF中田英が10試合で1位。2位はMF稲本で8試合。3位は7人が7試合。MF長谷部らは18年大会で1次リーグ3試合に出場し、16強に進出すれば歴代最多11試合となる。