不屈のハリル監督が涙の絶叫「0%」からの逆転W杯

日本対オーストラリア W杯出場を決め、あいさつする日本MF長谷部(中央)は本田らから水シャワーを浴びる(撮影・江口和貴)

<W杯アジア最終予選:日本2-0オーストラリア>◇B組◇8月31日◇埼玉

 日本(FIFAランク44位)がW杯本大会と予選で8戦未勝利だった宿敵オーストラリア(同45位)に2-0で勝ち、初出場から6大会連続となるW杯切符を手にした。サウジアラビアとの最終戦(5日、ジッダ)を残し、出場権の与えられる2位以内を決めた。最終予選は昨年9月のUAE戦(ホーム)に1-2で敗れ、まさかの黒星発進。いきなり「W杯出場確率0%」というデータを突き付けられたが、バヒド・ハリルホジッチ監督(65)が不屈の魂で歴史を塗り替えた。本大会は来年6月14日に開幕する。

 埼玉の歓喜。ハリルジャパンが宿敵にW杯とその予選で初めて勝ちロシア行きを決めた。65歳の指揮官は後半、審判に詰め寄り、引き留める樋渡通訳さえも怒鳴りつけた。終了間際には、指揮者のように両手でゴール裏のサポーターをあおった。就任から3年。ついにこの日が来た。「アリガトウゴザイマス。国民の皆さんの勝利です」と絶叫。その目には涙が光った。

 ゼロから-。65年の人生。何度もゼロからの挑戦を強いられてきた。ユーゴ内戦で人生が狂う。「名字が違うから、民族が違うから、宗教が違うからと殺し合う姿を見た」。指導者になるつもりはなかったが、生き延びるためフランスでの監督話に光を求め故郷を後に。「フランスに渡った翌日、私を殺そうと来た人たちがいた。すべてを破壊され、盗まれ、何も残らなかった」。出発があと30分遅ければ命はなかった。その歯に衣(きぬ)着せぬ物言いもあり、周囲との摩擦も多かったが反骨心の塊、困難をエネルギーにする男。ロシアへの道がどんなに険しくてもくじけるはずがなかった。

 引き分け以下なら解任の可能性もあった瀬戸際の試合で、采配がズバズバ決まった。経験のない22歳の浅野と21歳の井手口を先発させ、2人が得点した。「私は若手を信頼して使う、それが正しいことを証明できた。日本サッカーとっても良かった」。

 浅野のゴールが“一線を越えていない”と判定され、出場確率0%を突き付けられたのが昨年9月のUAE戦だった。あの試合から数え最終予選9試合目。W杯とW杯予選で未勝利だった宿敵からの初勝利も同じ9戦目。「代表合宿でも9周走っている。いつもそうだ。ずっと9番をつけていたから(笑い)」。9はゲンがいい。

 いつも全力。ハリル100%。時々、前しか見えなくなる。晴れ舞台のはずの会見も「プライベートに大きな問題がある」とし、質問を受け付けず一方的に退席した。この出来事に象徴されるように、いつもアクセル全開でハンドルに“遊び”はない。突っ走る。それしかできないが、信じてみれば、日本サッカーの苦境が劇的に好転するかもしれない。雨が上がったこの夜も、その手腕で歓喜の夜にした。「選手は英雄のような姿を見せた。基準となる試合になった」。ロシアの本番までも、あと9カ月だ。【八反誠】