「美しいサプライズ」ビッグ3外しのハリル監督真意

ハリルホジッチ監督について語るクリシ氏(撮影・木下淳)

 【リール(フランス)7日】日本が10日のブラジルとの国際親善試合に向け、合宿地で3日目の練習を行った。バヒド・ハリルホジッチ監督(65)が「今現在、世界一と言っていい」と認定する最強の相手。18年W杯ロシア大会の試金石となる一戦を前に元アルジェリア代表コーチで「ハリルの右腕」と呼ばれたノルディン・クリシ氏(63)が、ハリル流の強化方針や選手選考について明かした。本田、香川、岡崎の「ビッグ3」外しの狙いについても解説した。(取材・構成=木下淳、松本愛香通信員)

 付き合いは30年以上になる。クリシ氏は8月31日、W杯出場を決めた日本代表ハリルホジッチ監督に電話を入れた。「おめでとう。4年前と同じく、君はロシアでも美しい冒険をするだろう」。前回14年ブラジル大会でアルジェリアを初の16強に導いたハリルホジッチ監督を、コーチとして支えたのがクリシ氏だった。

 2カ月後の10月31日。指揮官は日本の欧州遠征メンバー発表で大なたを振るっていた。自宅を構えるリールでのブラジル戦を前に本田、香川、岡崎を選外に。全員外れるのは08年以降10年目にして初めてだった。

 クリシ氏は驚かない。「バヒドの口癖を思い出す。『常連のことは分かっている。(新戦力には)知らないからプレーさせるんだ。それが美しいサプライズになり得るから』と。才能と質に歴史は関係ない。大事なのはピッチ上。『いいプレーができれば残り、逆ならば去るだけだ』とね」。

 アルジェリア時代も「主力級を呼ばないことはあった」というが、重鎮を外すことが目的ではなく「あくまで新戦力の発掘が目的」と推察する。アルジェリア時代のW杯前年の11月は、まだアフリカ最終予選の最中。今月の日本のような遠征はできなかったが、12月にW杯初戦の相手がベルギーに決まると「翌年3月と大会直前にスロベニア、アルメニア、ルーマニアとの東欧勢と3連戦を組んだ。大事な初戦、かつグループ最強のベルギーに対抗すべく、技術的かつ筋骨たくましいチームと予行演習したかった」。そして続ける。

 「そこで『美しいサプライズ』があったんだよ」

 3連戦に向けて視察していたクリシ氏は、当時イングランド2部レスターに移籍して1カ月のMFマレズを発見。「バヒドに映像を見せたら『悪くないね』と」。2人でチェックに行くと評価が「逸材」に昇格。W杯直前の5月31日にアルメニア戦で代表デビューさせ、W杯の開幕ベルギー戦では先発を果たしている。

 そして今回。ハリルホジッチ監督は仮想W杯のブラジル、ベルギー戦で「ビッグ3」を外し、長沢を初選出。6月も常連の森重や清武を呼ばず、ブルガリアの加藤恒平らを抜てきした。

 「W杯へ『弱点を消し、長所を最大化する』方針は今も同じはず。そのためのテストだ」と理解を示す一方、「もしかすると(新顔の)プレーにバヒドはガッカリするかもしれない。その選手は戻ってこないだろう」。今回の欧州遠征は「当落線上の選手はもちろん、全員が試される。バヒドに先発(レギュラー)はない」と激しい生存競争を予告した。

 「いずれにしても、バヒドと日本の成功を信じているよ」とエールを送ったクリシ氏は「アルジェリアは4年前の16強が初めてだった。日本は?」と逆質問。当地フランス出身のトルシエ監督で、02年日韓大会で初めて1次リーグを突破したと聞くと、笑顔で親指を立てた。「安心しなさい。間違いなくトルシエよりバヒドの方が優秀だ」。主観を込めて、日本が狙う初のW杯8強に期待を寄せた。

 ◆ノルディン・クリシ(Nordine Kourichi)1954年4月12日、リール近郊オストリクール生まれ。現役時代は192センチ、87キロのセンターバックとしてボルドーやリールで活躍。アルジェリアとフランスの二重国籍でアルジェリア代表を選択し82年W杯スペイン大会で1次リーグ全3試合にフル出場。初戦で西ドイツを2-1で破った。86年メキシコ大会も出て国際Aマッチ30試合2得点。古巣マントやポワシーの監督を務めた。