森保監督、侍ジャパン稲葉監督と五輪論/特別対談

東京五輪の野球代表・稲葉監督(左)とサッカー代表・森保監督は代表ユニホームを背にがっちりと握手を交わす(撮影・松本俊)

 サッカー界と野球界の未来を担う2人が、地元五輪でのメダル獲得を誓い合った。20年東京五輪の指揮を執るサッカー森保一監督(49)と、野球日本代表の侍ジャパン稲葉篤紀監督(45)が新春特別対談を行った。五輪に挑む重圧や、組織論、代表への思い…。FW久保建英(16=東京)、清宮幸太郎内野手(18=日本ハム)ら若い世代への期待など、「○×形式」で語り合った。【取材、構成=前田祐輔、木下淳】

 初対面だった2人の対談は、周囲が抱く実直な印象通り、代表監督同士の名刺交換からスタートした。20年東京五輪に向けた、サッカー界と野球界の「顔」。互いの競技への印象は。

 森保監督(以下敬称略) 小学校5年生くらいまで野球をやっていて、プロ野球選手になるのが夢でした。出身が長崎なんですけど、おやじが長嶋茂雄さんの大ファン。広島の緒方監督とは同い年なので、一緒に街を盛り上げていこうということで交流してます。

 稲葉監督(以下敬称略) 私も小学校の時はサッカー部に入ってました。もちろん少年野球はやってたんですけど、学校ではサッカー部でキャプテン。ポジションはMFでしたね。今も試合を見に行きます。サッカー、面白いっすよね~。

 森保 自分がやってた時はショートが好きでした。

 稲葉 ああ、ショートっぽい。動きが軽やかな感じですよね。

 互いに代表監督を務めるのは初。サッカーは68年のメキシコ大会以来52年ぶりのメダル、野球は(正式種目以降)初の金メダルを目指す大役を引き受けた。

Q1:東京五輪監督の重圧がある

A:森保監督○ 稲葉監督○

 森保 何を期待されているか分かって監督を引き受けさせていただいたので。ただプレッシャーは、東京五輪の監督だからあるわけではなくて、どこで監督をやってもある。期待を背負って戦うプレッシャーを楽しめればと思ってます。こんな幸せなことないので。

 稲葉 私は北京五輪に選手として出て、そこから野球がなくなって、東京で復活するタイミングで監督をやらさせていただく。北京五輪でメダルを取れなかった(4位)。そこのリベンジですよね。燃えているものがありますね。

 互いに現役時代は大きな重圧の中で戦ってきた。

 森保 93年の「ドーハの悲劇」と言われるアジア最終予選(イラク戦)ですね。夢であり、悲願であるW杯にもう数秒、耐えていれば出られるというところまできて、夢が夢のままで終わってしまった。

 後半ロスタイム、森保監督はカズとともに、右サイドからのクロスを止めに行ったが、届かなかった。

 森保 サッカーを続けていく上で、これ以上プレッシャーに感じることないかなと思える経験。振り返ると、自分を強くしてくれる経験ができたと思います。

 稲葉 私は北京五輪のアジア最終予選(台湾)です。勝たないと五輪に出られないという3試合。特に韓国戦(4-3)ですね。一番プレッシャーがあって、一番長く感じて、一番勝ってホッとした試合でした。

 日本国中の注目を集め、重圧がかかる東京五輪の監督。引き受ける決断を後押ししたものは。

 稲葉 妻にはもちろん、いの一番に相談しました。絶対、こんなこと言いたくないですけど、負ければ迷惑かかりますし。家族には「私たちは一番の理解者であって、何があっても大丈夫だから」と。心強い言葉をもらいましたね。

 森保 同じです(笑い)。ポジティブなことしか考えてないですけど、すべてがあり得ることだと思うので。「そうなった時、大丈夫か?」ということを尋ねましたね。「思い切ってやんなよ」と言われたので、大きな後押しになりましたね。家族を傷つけないようにしたいと思います。

Q2:10代の久保建英、清宮幸太郎の招集の可能性は

A:森保監督○ 稲葉監督○

 即座に○を上げた森保監督の横で、稲葉監督は思わず苦笑いを浮かべて、考え込んだ。

 稲葉 はははは。これ、難しいですよ。可能性は…そりゃあ、ありますよ。

 森保 力さえあれば年齢は関係ないと思います。サッカーセンスあると思いますね。すごく向上心も持ってやっているのが雰囲気に出てますし、野心を持っている雰囲気もあります。もっともっと伸びる選手だなという風には見てます。ただ、久保君を呼ぶかどうかは最終的には…そこはニュートラルに見て、いい選手を選ぶ、ということでやっていきたいと思いますので…すいません(笑い)。

 稲葉 清宮君は、まずプロのスピードに慣れないといけないと思ってます。高校であれだけの本塁打を打ってますけど、ホームランバッターというよりはミートがうまくて打率を上げるタイプじゃないかなと思ってます。彼本人は本塁打を狙っていくと思うんですけど、そこで自分のバッティングを崩してほしくない。

 本塁打打者という固定観念ではなく、アベレージを残せる選手。それが稲葉監督の清宮評だ。

 稲葉 私は本当の4番タイプではないと思ってる。彼はどうしても足が使えないという部分では、4番よりは5番。野球界もサッカー界も、若い選手がどんどん出てきて盛り上げてくれるのが一番だと思います。

Q3:東京五輪でメダル獲得を約束する

A:森保監督○ 稲葉監督○

 稲葉 それ○にしないと「おい、何を言ってんだ」となりますよね(笑い)。

 稲葉監督は初陣だった昨年11月のアジアプロ野球チャンピオンシップで優勝し、森保監督は初の公式戦となるU-23アジア選手権中国大会が9日に開幕する。

 稲葉 チャンピオンシップはU24の大会で、オーバーエージ3枠というサッカーに近い感じでした。実はU24世代の方がやりやすかった。若い子は名前を売りたい、代表に入りたいとギラギラしている。トップチームの選手は言い方は悪いですけど、扱いづらいというか(笑い)。完成されてますから。

 森保 野球ってチームスポーツですけど、より個のスポーツなのかなと。カープのキャンプも見に行きましたけど、投手と野手が違う場所で練習している。組織づくりって難しいと思うんですけど。

 稲葉 コミュニケーションが一番だと思ってます。チームではレギュラーでも、代表では出られない選手も出る。そういう選手たちのモチベーションをどう上げるか。そこは絶対にコミュニケーションが大事だと思います。

 森保 勉強になります!

 稲葉 いやいやいや(笑い)。私は監督経験がないので、逆に教えてほしいです。相手や試合によって選手起用は変えますか?

 森保 相手に合わせて、いいところをつぶすタイプの監督だったり、監督が決めた序列でスタメンを選んで固定する人もいます。そこは柔軟にやっていきたい。稲葉さんは?

 稲葉 私も柔軟です。国際大会は特にそうですね。打者でいったら、この投手に合いそうだなとか。

 森保 僕は一番いいと思ってる選手の序列で試合に出すのが基本でしたけど、国際試合は短期間で結果を出さないといけない。相手とマッチアップした時に、上回っていけるかという選手起用に変えていかないといけないと思ってます。

 稲葉 森保監督は守りのサッカーなのか、攻めなのか、どっちタイプですか。

 森保 バランスです。

 稲葉 国際大会はそうなりますよね。年間通してなら、ある程度は守り、攻めもありますけど。

 森保 攻守にバランス取れたチームが強いと思います。ただ、どっちか選べと言われれば守備です。

 稲葉 私も一緒です。まずは守備を固める。

 森保 守備のベースがあって攻撃がついてくる。極論、サッカーは0-0なら負けない。その中で必ず1試合に何回かチャンスが来るので、そこで決めれば勝てる。より勝つ確率が高くなるのは守備をしっかりすること。それは持論です。

 柔軟な起用法に守備重視の考え、短期決戦への挑み方…。サッカーと野球を率いる新指揮官には共通点も多かった。新春らしく、答えもともにオール○! 森保監督が「全部○しか出せない質問でしたね」と突っ込んだのも、ご愛嬌(あいきょう)。東京五輪に向けて重要な準備期間となる18年を景気よくスタートしたい。