勝負師の凄み…西野ジャパン2日で急成長/記者の目

ボードを使って指示を出す西野監督(左端)(撮影・江口和貴)

<記者の目:サッカー日本代表>

■骨格見えた3バック、それ以上に生命線の両WB

 チームつくりに着手した西野朗監督(63)の3バックシステムは、急激に形になっていく。

 ハリルホジッチ前監督の解任があったからこそ、W杯まで1カ月を切った中で招集された新チームだからこその光景だろう。4バックではなく、日本代表としては異例の3バックにこの急場で挑もうとするところに、西野監督の勝負師としてのすごみを垣間見た。

 3バックの根幹を成すのは、冷静なセンターバックになるが、実は運動量が豊富で、アップダウンに耐え、正確なクロスを武器に攻撃参加しつつ、いち早く自軍に戻る献身性を持つ両ウイングバック(WB)が西野体制では生命線になる。その左WBには無尽蔵のスタミナを今も維持する長友が座り、右WBは海外経験豊富で、安定したDF力も正確なクロスでも攻撃参加できる酒井宏樹と、原口が競う形になっている。

 酒井宏はフランス1部リーグ・マルセイユでPSGのネイマールとガチガチのマッチアップをこなしてきた実績がある。世界超一流のストライカーで、ドリブルの巧みさではタイプは違うがメッシにも劣らない変幻自在のステップを踏むネイマールに対し、ほぼ五分に渡りあい日本のファンを喜ばせた。

 一方のライバル原口は、ハリルホジッチ前監督が最終予選を突破した際の貢献度でトップ3に入る活躍だった。左サイドで攻撃参加しながら、誰よりも早く攻守を切り替え、相手MFが前にボールを運ぼうとする動きを何度も何度も遅らせた。そのスタミナと、チーム戦術に忠実に動き回る姿勢は、右WBとしても非常に大きな期待が持てる。

 その強力なライバルを持った酒井宏は「元気君と争ってますけど、それは理想です。マルセイユでもライバルはいますし。あれだけタイプの違う元気君が相手ですけど、いいことです」と、さらりとメディアの質問を流した。

 この3バックと両WBの顔ぶれが見えてきたことで、チームの土台がこの2日間で急速に進んだことを感じさせた。さらに、ボランチではコンディションの良さと、守備力の高さを買われて山口がほぼ定位置を手中に収めようとしている。セカンドボールへのアタックの反応の良さと、球際の強さ、カバリングの高さと、試合終盤に見せるミドルシュートなど、山口の魅力は多岐にわたる。山口の相棒は、現時点では柴崎、井手口、大島あたりと思われるが、守備的な3バックだからこそ、山口の安定した守備は、ボランチの一翼としてチームにさらに安心をもたらす。もう一方のボランチには、フィードを求めるのか、FW陣とのリズミカルなパスワークを求めるかで、選択肢は広がってくる。

■本田でさえ…サブ組そしてチーム全体に「危機感」

 この3バックからボランチにいたるチームの骨格の中で、攻撃陣には非情な争いが日増しに激化している。ワントップは大迫が、そして左のシャドーは宇佐美が1歩リードしている。残る右のシャドーでは原口がリードし、それを本田が追う展開と思われる。岡崎は大迫に次ぐ2番手、香川も左右シャドーの2番手として、必死に食い下がっている。

 この日、本田はフォーメーション練習の1本目でサブ組の右のサイドに入っていたが、鬼気迫る表情でボールを追う。途中からポジションを右サイドから左サイドへチェンジしつつ、同じサブ組の左SB酒井高との連携で、主力組の3バックを完ぺきに崩している。そこには、本田に代表されるサブ組の必死さと、ここから巻き返そうとする意欲がにじみ出ていた。

 フォーメーション練習では、主力組は3バック。対するサブ組は4バックだった。3バックが4-4-2にいかに対応するか、どこにほころびがでるかを、西野監督、森保、手倉森両コーチは必死にさぐっていた。だからこそ、本田もサブ組として腐るどころか、まさに真剣勝負で3バック突破に何度も挑んでいた。

 つい先日まで、西野監督は黙ってピッチを歩き、軽~くランニングしながら選手の様子を眺めていたが、もう指揮官としての緊張感がその全身から漂っている。監督交代という激変の中にあるが、チームは既に生まれ変わっている。新しいチームはできつつある。目の前にはガーナ代表、スイス代表、パラグアイ代表との強化マッチが控えているが、そこでいきなり好成績が出るほど甘くはないだろう。

 酒井宏は「練習試合3つ負けても、本番で3つ勝ってグループ突破すれば、誰も文句ないわけですからね」と言った。宇佐美も「最初は苦労した方がいいんです」とも言った。ガーナ戦が厳しい内容になることは誰もが想像することだが、ひとつだけ言えるのはW杯南アフリカ大会では、初戦カメルーン戦までの岡田ジャパンはボロボロだった。しかし、それでも結果はメディアの予想とは真逆だった。

 DF吉田が言っていた言葉が日本のサッカーファンを勇気づける。「危機感は大事です。客観的に自分たちを見詰めることができますから」。新チームは、十分な危機感にまみれて誕生した。それは同時に、多くの可能性を含んでいるということだ。【井上真】