リトルなでしこに衝撃 W杯直前楠瀬監督がハグ辞任

18年10月25日、協会で取材対応するU-17女子日本代表の楠瀬直木監督

スポーツ界に相次ぐ不祥事が、今度はサッカー界で顕在化した。日本サッカー協会(JFA)は1日、U-17(17歳以下)女子日本代表“リトルなでしこ”の楠瀬直木監督(54)が「女性職員への不適切行為」により、10月31日付で辞任したと発表した。チームはU-17ワールドカップ(W杯)ウルグアイ大会(11月13日開幕)に向け、この日に福島県内で事前合宿をスタートしたばかりだった。後任はU-18女子日本代表の池田太監督(48)が務める。

JFAによると、楠瀬監督は昨年6月、業務中の打ち合わせ後に屋外で女性職員にハグをし、同職員が不快感を覚えた。今年9月にも身体的接触があり、同月下旬に同職員がメールで所属部署の上司に相談したことで明らかになった。ハグの理由に関して楠瀬監督は「お疲れさまの意味だった」と説明したという。

専門家の立ち会いのもとで、両者に複数回のヒアリングを行うなどし、楠瀬監督から辞任の申し出があったことから、女子委員会で今回の決定にいたった。会見で田嶋幸三会長は「指導者には、高い倫理観と規律が必要なことは言うまでもない。こうした危機が生じたことを、誠に残念に思っている」と話した。楠瀬監督から「大変ご迷惑をおかけして申し訳なかった」と、謝罪があったという。

U-17女子代表は大会を目前に控え、事前合宿に入ったばかりだった。チームスタッフには10月31日に、1日集合の選手にはバス内で、今井純子女子委員長から事情が説明された。会見に出席した今井女子委員長は「スタッフも選手も一様に驚いていた。この事実にしっかり向き合い、対処することで、今後このようなことがないようにしていきたい」と神妙な面持ちで話した。チームは4日にウルグアイへ出発する。

サッカー界では15年に当時のJリーグ理事が、女性職員へのパワハラおよびセクハラ行為により退任。JFAは相談員の設置や外部弁護士へ連絡できる環境を作るなど、コンプライアンス強化に取り組んできた。そのさなか、2大会ぶりの世界一を目指すU-17女子代表を率いる監督に起きた不祥事に、須原清貴専務理事は「アンダーカテゴリーの女子チームの監督ということもあり、より一層の高い倫理観と規律が求められると考えている」と話した。

監督やコーチに対しては契約書に記載されたコンプライアンスの内容を十分留意するよう契約時に説明しているというが、その後のフォローアップなどはなかったという。須原専務理事は「今後はチームスタッフなど現場の関係者にしてもコンプライアンスの研修を強化し、再発防止に努める」とした。楠瀬監督の処分や指導者ライセンスなどに関しては、今後の裁定委員会や技術委員会を経て決定される。【岡崎悠利】

◆楠瀬直木(くすのせ・なおき)1964年(昭39)4月17日、東京都生まれ。帝京高校時代には全国高校総体制覇を経験し、法大を経て86年に読売サッカークラブ(現J2東京V)に加入。主にDFとしてプレーし、現役引退後は栃木県のヴェルディSS小山ジュニアユースの監督を務めるなど育成年代の指導に力を注いだ。10年から東京Vユースの監督に就任し、同年から日本クラブユース選手権を2連覇。12年から当時JFLの町田(現J2)のアカデミーダイレクター兼ユース監督となり、15年に町田から出向する形でU-16日本女子代表監督に就任。16年のU-17女子W杯ヨルダン大会ではチームを準優勝へ導いた。実兄は歌手の楠瀬誠志郎。