W杯から1年 分析官が見た選手、監督の矜持/下

後半3分、原口のゴール(右)と後半7分、乾のゴール

<W杯ベルギー戦から1年 悪魔の14秒その裏側(下)>

18年7月1日。ワールドカップ(W杯)ロシア大会の決勝トーナメント1回戦を翌日に控えた日本は、ベルギー攻略法を練っていた。日本サッカー協会(JFA)テクニカルハウスの片桐央視リーダー(35)ら分析チームは、ベルギーの1次リーグ3試合を攻撃10分、守備7分、セットプレー3分の映像にまとめ、パワーポイントも駆使しながら対策を提示。西野監督の訓示も含め、相手の特徴をインプットした。

■サブ本田圭佑の言葉で1つに

カウンター攻撃の脅威は世界中に知られており、選手たちは十分に認識していた。そのため分析班は、あえて映像にカウンター場面を入れすぎないようにし、説明順、分量に細心の注意を払った。その後、多くの選手が自主的に「カウンターに気をつけよう」「意外と守備に穴がある」と補足の意見を言い合った。

そんな中、この大会はサブに回っていた本田圭佑の言葉で1つになった。

本田 日本サッカー協会は「2050年宣言」で50年までにW杯で優勝するという目標を立てている。W杯で優勝するなら、何度かベスト8に入った上でベスト4にも進み、という段階を踏まなければいけない。その第1歩となるベスト8へ、今回はものすごいチャンスだ。絶対につかもう。

片桐氏 代表の歴史や代表選手の責任、義務、役割など、自分たちが今後の日本サッカー界のために何をすべきか言ってくれた。選手は皆、サッカー全体のことを考えてプレーしているんだなと深く感じた。我々は細かく相手の戦力を分析し、わずかな隙を探すのが仕事だが、ピッチに立つ選手たちはもっと大きなものを背負って、成し遂げるために努力している。これは歴代代表の誰もが思ってきたこと。これからの代表選手にも持ち続けてほしい。

■課題は世界トップ中のトップの高さ封じ

日本が脈々と受け継いできた精神面に加え、戦術面でも現在の森保兼任監督には西野監督たちから受け継いだものがある。

片桐氏 西野監督はボールを保持しながら主導権を握るサッカーを得意とし、W杯でもそこを表現しながら結果を残した。縦に速いカウンター攻撃はハリルホジッチ監督が徹底したもので、そこも受け継いでいたから両方の攻めができた。前から行く守備、引き込む守備、どちらからでも攻撃に移行できたし、守から攻の切り替えがうまく機能した時は得点につながった。

一方で課題は「世界トップ(の中の)トップの高さを封じる対策をテクニカルチームとしては挙げた。比較して高さがない分、簡単にクロスを上げさせない、競り合いの技術やマーキングの徹底などが、より重要になってくる」と言う。

約1年後、森保監督は6月の代表戦で初めて3バックを導入。システムを使い分け始めたが、片桐氏は「システムで補う方法も多少はあるが、森保監督は高さ対策だけで3枚や4枚にしているわけではないと思う」と私見を述べた。その上で「現代サッカーは同じシステムで90分間、戦い続けることがほとんどない。状況の変化によってシステムを変えながら、柔軟に対処することが必要になっている。だからこそ、森保監督はいろんな形を試しているはず。9月から始まるW杯カタール大会アジア2次予選、来年の東京オリンピック、そして22年の本大会へ、より成熟した日本代表をお見せしたい」と教訓を生かす。

■東京五輪での金 W杯優勝への道しるべ

7月19日。敗退から約2週間後の都内JFAハウスの一室で、W杯総括ミーティングが開かれた。3時間に及んだ中、西野監督や関塚技術委員長は「ロシアの戦いが(今後の代表の)ベースになる」と言った。東京での金メダル、将来のW杯優勝へ、道しるべはできた。当時主将のMF長谷部も「ベルギー戦を見た若い選手は感じるものがあったと思うし、日本のサッカーが上に行くには、あれが1つの何か大きなものになったと言えるように頑張ってほしい」と託した。森保監督の戦術、選手の自覚、それを支える分析スタッフの献身-。三位一体で新時代を切り開いていく。【取材・構成=盧載鎭、木下淳】(おわり)

■「忘れられぬ14秒」

・ベルギー代表GKクルトワが自身の公式ツイッターを更新した。「忘れられない14秒をスタートさせたスロー」とつぶやき、1年前に行われたW杯ロシア大会決勝トーナメント1回戦日本戦の「14秒カウンター」の動画を投稿した。