【森保一×原辰徳】選手は強そうで弱い、弱そうで強い 自分は強さがない…もっと学んでいく/2

グータッチを交わす森保監督(左)と巨人原監督(撮影・河田真司)

<W杯カタール大会11・20開幕 あと99日>

ワールドカップ(W杯)カタール大会開幕まで、12日で100日となった。サッカー日本代表森保一監督(53)が、節目の日を前に、巨人原辰徳監督(64)との対談に臨んだ。W杯で初のベスト8を目指す指揮官、09年WBCで世界一に輝いた名将。がっぷり四つで、膝を突き合わせた。【取材・構成=浜本卓也、栗田尚樹、岡崎悠利】

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日の丸を背負い、世界と戦う。異国の地で君が代を聞く機会は、限られた人しか経験出来ない。森保監督が、試合前の国歌独唱で涙を流す姿は見慣れた光景だ。

森保監督 国を代表して戦える、本当に日本人で良かったと心の底から思えるし、喜びであったり幸福感であったり、日本人として世界と戦える誇りを感じられる瞬間ですね。

W杯の舞台、カタールでも君が代が流れる。

森保監督 両国にとってアウェーですが、そこで我々が勝つために戦う、最後まで団結して粘り強く戦う意思を持たせてくれるのは君が代。初戦のドイツの方が、世界的に認知度が高いのでアウェーのようになると思うが、W杯最終予選で崖っぷちに立ったときも「このプレッシャーで戦える、環境で戦えるのは選ばれた人間しかできない」と。「幸せであり、喜びである」と。その思いをもって試合に臨もうと最終予選でも言っていました。W杯でも、アウェーの雰囲気が予想される中で、戦えることが喜びであり幸せであり、代表としての価値である。自信にして戦おうというのを伝えたい。

森保監督の熱い気持ちに、原監督はただただ、うなずいた。

気付けば、予定の時間を過ぎていた。原監督に森保監督への激励をお願いした。

原監督 僕はもう、今まで積み上げてきた4年間の集大成、という形で結果、そこの部分に大いに自分自身に自信を持ち、そして、自分自身を褒めながら、それで戦ってもらうことが願いですね。やっぱりどこかに、疑念というか疑心というか、それはあるんだけど、勝負の世界にはね。監督っていいことばっかり考えていても駄目なんだけども、しかし、それをやっぱり、疑心をはるかに超える気持ちで戦ってもらいたい。勝つ負けるという結果よりも、日の丸を背負って全員が懸命に戦ったんだという中では、どんな状態になっても拍手を送る。W杯の予選だって、最初はもう駄目かなと思ったもんね。出足。つまずいたどころじゃないよね(笑い)。

森保監督 …(笑い)

原監督 しかしそこから粘って、出場権をとったチームですから。やっぱり、まあ、自信と誇りをもって戦ってもらいたいなと思っています。

森保監督 ありがとうございます。

原監督 1つ、付け加えるとですね、監督の仕事という点では、選手は強そうで、弱い。しかし、弱そうで、強い。これを、うまーーく、困っているなという時には、ちょっと後ろから押してあげたり、ちょっとこの選手、ちょっと間違った方向に行っている時には方向転換をしたり、その辺の微調整の役割は監督の仕事でしょうね。

森保監督 はい。原監督、すごいと思います。個のキャラクターって巨人の選手ってめちゃくちゃ強いと思うけど、そこから逃げずというか、朗らかで優しい方だが、厳しい勝負で修正ができる方だと。朗らかなお人柄の中に、いつも勝負師としての強さを持っているなと、ここ数回お会いして感じている。自分は強さがないところが…(笑い)。もっと学んでいかないといけないと感じさせてもらっています。

原監督 W杯、大活躍、世界一になったら、僕の力もちょっとあるかもしれないね(笑い)。

森保監督 いやいや、めちゃめちゃあります(笑い)。

原監督 頑張ってください!

森保監督 ありがとうございます!

そう言うと、かばんから一冊の書籍を取り出した。原監督の著書「原点」。「『うまい選手より、強い選手を必要としている』と本に書かれていて。まさにそうだと思った」と感銘を受けたバイブル書。本人を前に、恥ずかしがりながら「サインいただけますか?」と頭を下げた。快くペンを走らせる原監督。本を手に、ツーショット撮影も。少年のような笑顔だった。

熱気がこもった応接室を出た。ドーム内のひんやりとした空気をまとっても、森保監督は高揚していた。回転扉をくぐり「回転するのが、めちゃくちゃ速いですね」。何げないことにも興奮した。本から飛び出た名将の生の言葉は、何にも代え難いものだった。「頑張ります」。約2年前に手に取った「原点」を思い返した。車に乗り込むと、その目は勝負師のものへと変わっていた。

<東京五輪での感想 原監督>

巨人原監督は時間が合えば日本代表戦をテレビで観戦するなど、サッカーにも精通する。昨年の東京オリンピック(五輪)では「地に足がついてるというのはああいうことを言うんだよね。目立たぬように、しかし言っていることはすごく言っている。そこに監督としての威厳、強さをみじんも見せない。良い指導者だな」と森保監督の立ち居振る舞いに注目していた。今回の対談前には一緒に食事をするなど交流も深めており「もうたくさん話をしたから対談しなくてもいいんじゃないの?」とジョークを飛ばしていた。だが、いざ膝をつき合わせると真剣な表情に。試合前のミーティング開始直前まで思いを交わし「思い切って戦ってもらいたい。我々は応援するということしかありませんけどね。頑張ってもらいたい」とエールを送った。

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◆原辰徳(はら・たつのり)1958年(昭33)7月22日、福岡県生まれ。東海大相模で甲子園4度出場。東海大を経て80年ドラフト1位で巨人入団。1年目に22本塁打で新人王。83年打点王、MVP。ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞2度。95年に引退し、99年にコーチで巨人復帰。02年監督就任し、日本一。03年退任も06年復帰し、2度のリーグ3連覇。15年に退任し、19年に3度目の監督就任。22年から新たに3年契約を結び、今年で通算16年目。リーグ優勝9回、日本一3回。09年WBCでは日本代表を率いて世界一。02、09、12年正力松太郎賞。18年野球殿堂入り。180センチ、86キロ。右投げ右打ち。

◆森保一(もりやす・はじめ)1968年(昭43)8月23日、静岡県掛川市生まれ、長崎県長崎市育ち。現役時代のポジションはボランチ。長崎日大高から87年にマツダ入り。92年にオフト監督の日本代表に初選出。93年にドーハの悲劇を経験。04年に現役引退し広島のコーチに就任。12年に監督となり、J1を3度制覇。17年10月、東京五輪を目指す日本代表の監督に就任。18年には西野ジャパンのコーチとしてW杯ロシア大会を経験し、大会後の7月に五輪代表との兼任でA代表監督に就任した。東京五輪は4位。A代表は7月の東アジアE-1選手権で優勝し初タイトル獲得。愛称は「ポイチ」。国際Aマッチ35試合1ゴール。174センチ、68キロ。

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