北九州移籍の山岸「いろんな感謝が山形にはある」

14年12月7日、J1昇格プレーオフ決勝 千葉対山形 勝利しJ1昇格を決めガッツポーズで喜ぶ山形GK山岸

 「山の神」よ、ありがとう! J2山形のゴールを体を張って守り続け、今季からJ3北九州に期限付き移籍したGK山岸範宏(38)が日刊スポーツにメッセージを寄せた。14年6月に浦和から加入。同年のJ1昇格プレーオフ準決勝では後半ロスタイムにヘディング弾を決めて昇格の原動力になった。山形での2年半を振り返りつつ、苦楽をともにしたサポーターへの思いも語った。

 「山の神」が北九州に旅立つ。14年のJ1昇格、天皇杯準優勝に始まり、15年のJ2降格、16年のJ2苦戦など、起伏に富んだ山形での2年半に感謝し、新しい1歩を踏み出す。

 山岸 自分のキャリアの中でも山形にいた2年半はすごく濃密で充実していたし、いろんな方に支えられて過ごせた。この地を離れるのは、人間として寂しさを感じる。山形の地で、チーム内で責任のある立場を任されて自分も勉強させてもらって成長できた。浦和の時に小さくなっていたキャリアの炎を、またよみがえらせてもらった。いろんな感謝が山形にはある。言葉だけでは表現できない。

 14年6月、山岸の加入で山形は上昇気流に乗った。闘志を前面に出すスタイルでゲーム主将に就任。6位で滑り込んだJ1昇格プレーオフでは、準決勝の後半ロスタイムに「奇跡」とも言われたヘディング弾を決めた。サポーターからは「山の神」とたたえられ、代名詞として定着した。

 山岸 準決勝のヘディングシュートがスポットライトを浴びがちだけど、昇格したことの方が印象深いし、自分が加入したから昇格できたとは思わない。昇格の要因は、選手が同じ方向を向いて自信を持って戦えていたことと、石さん(石崎信弘前監督)がブレずに積み重ねてきた指導の成果だと思う。14年シーズンの終盤2カ月は、チームもスタジアムもポジティブな空気に包まれていた。自信を持って試合に臨めていたし、結果もつかめていた。

 声を張り上げ、ゴール前に立ちはだかる守護神山岸にとって、サポーターの声援が何よりの活力だった。2年半を振り返った決意の色紙には「感謝」の2文字をしたためた。

 山岸 14年の終盤みたいに、いい時だけじゃなくて、15年のJ2降格、16年の苦戦と、サポーターの期待に応えられないことのほうが多かった。もっともっとサポーターを喜ばせたかったし、多くの勝利と多くの笑顔を一緒に共有したかった。

 勝てば称賛され、負ければブーイングを浴びることもあった。いつもゴール裏へのあいさつは、主将の山岸が先頭に立って行っていた。

 山岸 思いがぶつかりあったこともあったけど、それは同じモンテディオの勝利を目指す上での、同じベクトルの中にあるぶつかり合いだと思っていた。ぶつかったからこそ、強い情がある。苦しい時期でも、選手、チームを鼓舞し続けてくれたのはうれしかったし、感謝の気持ちがある。

 突然の移籍決定により、サポーターに別れのあいさつをする場に恵まれなかった。山岸は神妙な面持ちで、言葉を紡ぎ出した。

 山岸 サポーターに直接、顔を向けてあいさつできなかったのが心残り。今、サポーターの前であいさつしたら多分、泣いちゃうと思う…。

 移籍先の北九州は、1年でのJ2復帰を目標に掲げる。今季から使用する「ミクニワールドスタジアム北九州」はJ1規格の約1万5000人の収容人数を誇る。

 山岸 新スタジアムはJ1で戦うためのもの。今季はJ3で戦って、1年でJ2に復帰する。欲張るわけじゃないけど、J2に残留ではなくJ1昇格を目指して戦わないといけない。そういう覚悟があり、決意がある。

 山形同様「昇格請負人」として体を張って、北九州のゴールを守り続ける。

 山岸 アスリートとして、これから自分のキャリアが前に進んでいく上で、大きな決意と希望と覚悟を持って北九州に行きたい。また新たなチャンスを与えてくれたクラブに、どこまで貢献できるか。

 J2復帰を果たせば、山形との対戦が実現する可能性がある。古巣とはいえ、勝利にこだわる闘将山岸がブレることはない。

 山岸 山形との対戦が実現すれば、特別な感情が湧いてくるのは間違いないけど、北九州の勝利に全力を尽くすだけだね。【取材・構成、高橋洋平】

 ◆山岸範宏(やまぎし・のりひろ)1978年(昭53)5月17日、埼玉・大里町(現熊谷市)生まれ。市田小3年からサッカーを始め、大里中、熊谷高を経て、中京大に進学。00年の大学選手権で関東、関西以外の大学で初の日本一。01年に浦和へ入団し、06年のJ1優勝に貢献。14年6月に山形へ期限付き加入し、J1昇格に導き15年に完全移籍。16年にJ3北九州へ期限付き移籍。J1リーグ通算171試合、J2リーグ通算65試合出場。185センチ、88キロ。血液型O。