山形に新戦力12人 本田「昇格するためにきた」

真剣な表情でパスを出す山形MF本田

 26日の開幕が待ち切れない! 木山隆之新監督(44)率いるJ2山形は今季、12人の新戦力を補強した。最大の注目は清水から完全移籍で加入した元日本代表MF本田拓也(31)。ボランチとして高いボール奪取能力を誇り、パスの展開力も持ち合わせる。加入1年目から主将に抜てきされ、チームの柱として期待がかかる。本田以外の11人も好素材が多く、満を持して3度目のJ1昇格を狙う。

 中盤に輝く背番号14。そこにいるだけで、存在感が違う。守備では出足の鋭いプレス、攻撃では針の穴を通すスルーパスで決定機を演出する。元日本代表の肩書はだてじゃない。本田は「少しでもチームの役に立ってJ2で優勝する。J1に昇格するためにやってきた」。プロ生活をスタートした清水からは引き留められたが、木山監督からの熱烈ラブコールを受けて山形入りを決断した。

 今季から掲げる「ビルドアップ(攻撃の組み立て)」は、DFラインの正確なパス回しが大前提だ。本田が時折3バックの間に入り、組み立てに参加する。「ボランチの1枚が下がって、片方が前に残る。臨機応変にできたら。意図を持ってボールを回しているから、やっていて楽しい」と手応えをつかんでいる。

 キャンプ序盤で既にチームに溶け込んだ。食事では若手と積極的に話し、意思疎通を図っている。「練習中には声がよく出ているし、雰囲気がすごくいい」。木山監督は猛練習で知られ、時に3部練習まで行う。「厳しい練習の方が体が動くし、状態は上がる」。宿舎まで約15分間の帰り道を1人で走り込み、コンディション調整に余念がない。

 日の丸を背負った経験が買われ、異例とも言える加入1年目で主将に抜てきされた。「自分の背中を見てもらえれば。手を抜けないし、手を抜く気もない。チームが良くなるのであれば、どんどん要求していく」。昨年の清水に続いて、2年連続の昇格請負人になってみせる。【高橋洋平】

 ◆本田拓也(ほんだ・たくや)1985年(昭60)4月17日、神奈川県生まれ。桐光学園高から法大に進学し08年清水入り。本田圭佑(ACミラン)らとともに同年の北京五輪に出場。10年、日本代表に初招集され、11年アジア杯で2試合出場。同年鹿島に移籍し、13年7月に清水復帰。J1通算145試合4得点、J2通算19試合無得点。177センチ、75キロ。

<今季の補強の狙いとは>

 3年ぶりに編成へ復帰した中井川茂敏取締役トップチーム事業部担当(59)に今季の補強の狙いを聞いた。「J1昇格ではなく、定着を目指した中長期的なビジョンを考えた上で、ポジションと年齢のバランスを考えました」。昨年、J2残留を決めた山口戦の先発平均年齢は31歳で、J2平均を大きく上回っていた。チーム全体の平均年齢は昨年より2歳も若返り、25歳まで下がった。

 獲得した選手の特徴にも、狙いが見て取れる。「木山監督がやりたいサッカーを研究しました。DFにはビルドアップに必要な高いキック力を求め、前線には泥くさくボールを追う走力がほしかった」。結果的に木山監督が前年に指揮を執った愛媛から4選手を獲得したことについては「阪野は大学卒業から3度目のオファー。ほしい選手がたまたま愛媛だっただけ」と説明した。

<期待と気合!!新たな力>

 ▼FW阪野 実は山形男だ。明大在学中の09年天皇杯で山形相手に得点を決め、浦和加入後のプロ初得点も山形。昨年は木山監督率いる愛媛でプレーし、山形から2点を奪った。「一番成長できると思った」と、師弟関係継続を志願。前線のキープ力やDFラインの裏に抜け出す動きが武器で、1トップとしての献身的な守備も高い水準でこなす。エースFWとして、2年連続の2桁得点に期待がかかる。

 ▼FW瀬沼 高校の先輩に当たるパス供給役の本田と「桐光学園」ホットラインを完成させる。185センチの長身を生かして前線のターゲットになれば、多くの得点パターンが望める。豊富な運動量が持ち味で「自分の売りは全力で走ること」と迷いがない。昨年愛媛でコンビを組んだ阪野との息の合ったプレーも見ものだ。今年27歳になる「90年会」はチーム内に6人もおり、まとめ役としても期待される。

 ▼FW中山 正真正銘の「ストライカー」だ。大産大時代には趣味のボウリングでパーフェクトを達成。ピン同様、ボールも正確に射抜く左利きのFWで、昨年は山口で故障に泣きながら29試合で11得点を挙げた。「点をとらなきゃ、サッカーをやっている意味がない。今季の目標は昨年以上の15得点」と豪語。185センチの瀬沼、181センチの阪野と形成する180センチ超え3トップが、得点力不足を解消する。

 ▼MF風間 近年の山形にはいなかった待望の司令塔型ボランチが、攻撃のタクトを握る。正確に長短のパスを蹴りこんでリズムをつくり、決定的なラストパスを供給する。積極的な飛び出しも得意としており、中盤で攻守に存在感を発揮する。5月7日には父八宏監督が率いる名古屋とホームで対戦が決まり、自身初の親子対決が実現する。「どの試合も一緒だけど、勝ちたい」と闘志を燃やす。

 ▼MF中村 苦労人からはい上がった。昨年は基本給のないアマ契約で群馬に入団。「人生長い中で1年間ぐらいどうにでもなる。挑戦したかった」。練習後の午後にスクールのコーチで生計を立てながら、5月にはボランチの定位置を確保。翌月からは念願のプロ契約を勝ち取り、大卒1年目で34試合に出場し4得点を挙げた。「自分にしかできない味を出す」と神出鬼没の動きで攻守両面に激しく顔を出す。

 ▼MF南 柔らかい天性のボールタッチは見る者を魅了する。チャンスメークに加え、得点にも絡む創造性豊かなMF。4バックのトップ下やサイドハーフ(SH)が本職ながら、山形では初の3バックの2列目(シャドー)に挑戦する。「SHより攻撃に重点を置ける。やっていて楽しい」。15年には東京Vで41試合10得点とポテンシャルは高い。「秀仁(しゅうと)」の名前通り、シュートを打ちまくる。

 ▼DF高橋 山形ユースから通算6人目の昇格を果たした。チーム唯一の山形出身ルーキーは、手堅い守備と積極的なコーチングが売りの成長株だ。県民の期待も大きく「未来のミスターモンテディオ候補」との呼び声もあるが「活躍したらサポーターが自然に呼んでくれる。自分で決めることではない」と前を向く。1年目の目標は「まずは公式戦に出ること。実力をつけないと話にならない」と冷静だ。

 ▼DF菅沼 センターバックとして屈強な体を誇り、1対1と空中戦には絶対的な自信を持つ。DF陣の統率役としても期待され、加入1年目から副主将を任された。昨年山形は49失点しているが「年間で30点前半から20点後半にまで失点を減らしたい」と頼もしい。合流前は昨年山形に在籍したFW大黒と自主トレをしており、仕上がりは万全。古巣京都と激突する26日の開幕戦で大黒を封じ込める。

 ▼DF加賀 秋田出身のイケメンセンターバックは、持ち味のスピードを生かして相手FWを封殺する。積極的にビルドアップへ参加し、時折攻め上がって放つ高精度のクロスは意外性も秘めている。出場機会を求めて、新天地に山形を選んだのは「秋田と同じ東北で親近感があったから」。33歳のベテランは「山形に来た以上は試合に出ないと意味がない。もう1回やれるんだというのを見せたい」と意気込む。

 ▼DF茂木 本職のセンターバックに加え、両ウイングバック、ボランチもこなす万能型。174センチながら空中戦も強く、正確なキックで攻撃の組み立て役も担う。またロングスローを得意としており「35メートルは余裕で飛びます」。浦和から昨季加入した愛媛では開幕スタメンを逃しており「今年は絶対開幕に出ます」。戦術理解力は高く、4人いる木山チルドレンの末っ子として、チーム内の橋渡し役になる。

 ▼GK児玉 守って、蹴っては当たり前。鉄壁のシュートストップに加え、フィールドプレーヤー並みのキック力を誇る。典型的な「面白い関西人」キャラで、笑いも取れる3拍子そろった新感覚GKだ。愛媛では2年連続で42試合フル出場し、1試合平均失点は1点以下をキープした。「それでもJ1に昇格できなかったので、今年は年間35失点以下が目標。与えられた場所で100%やるだけ」と強気だ。