湘南曹監督「ナイスゲーム」も肉離れで苦悶の表情

試合後、肉離れした足の痛みから顔をゆがめる湘南の曹貴裁監督(撮影・村上幸将)

<明治安田生命J2:湘南2-0千葉>◇第5節◇25日◇BMWス

 湘南ベルマーレの曹貴裁監督は「今日はナイスゲーム。こういう90分は去年、経験できなかった」と評価した。

 一方で、自身がジャンプして、ふくらはぎを肉離れしたと告白し、会見中、苦悶(くもん)の表情を浮かべる一幕もあった。

 総括 今日はナイスゲームだったと思います。今まで4回、負けなしで来たんですけど、90分の中に波があって相手を止められない時があった。今日は90分通して、自分たちのやりたいことを整理できて、最初から最後まで終わったと思う。今日で大事だったことは、やっぱりプレスの波を3つ作る、1、2、3というところでプレスの波を作ることが出来た。今までは、ちょっと2列になったところがあった。今日は、しっかり3ライン作って、相手にかかっていけたことが1番の勝因。なかなか、こういう90分を去年は経験できなかった。選手の走る意欲とか、誰が出てもやってやるんだという意欲には敬意を表したいと思います。ただ…僕が、ちょっと情けないことに、人生で初めてジャンプしたら肉離れしちゃって…本当、痛いっす、これ。(ブンデスリーガの)ライプチヒのラングニック監督が、選手に追い掛けられて肉離れしたことが分かる。あの人は、もも裏だったと思うけれど、僕はふくらはぎなんで。僕の場合は、追いかけられなかったですけど…あまり勝っても(肉離れで)うれしくないんだろうかな、という気持ちが、何となく分かった気がします…肉離れした監督という意味では。

 -簡単に相手にボール渡したところがあった

 90分通して、自分たちのリズムで、ああいうことを失敗と捉えて、選手に伝えていたらうまくならないし、だったら、もう1タッチで(相手の)裏に蹴れと言うしかない。あそこで(ボールを)なくすとか、失敗するのは悪いこととは思わない。ただ、そういうことも含めて、チーム全体が成熟しないといけないけれど、急に1歳が20歳、20歳が40歳にはなれないから、一歩ずつ選手に提示していかないといけない。俺の中ではネガティブに捉えていない。

 -前回から4人、先発メンバーが変わった。それが奏功したのか?

 2日後にチャンピオンズリーグを控えているから、ローテーションした、と言ったら格好いいよね。そもそも、メンバーを変えたっていう意識は、僕の中になくて。前試合のことは、すっかり忘れているし、ジェフさんに対して、どういう選手を使っていいかを最後まで考えて出した。そのことは、我々のチームにとって、大きなサプライズでも小さなサプライズじゃない。ごく当たり前…ノーマルなことです。ただ、負けちゃうと、采配とかなんとか言われちゃうんだけど、俺はただ単なる勝ち負けでチームを判断する立場にはない。勝とうが悪いことは悪いし、負けようがいいことはいいと言ってきたので、自信を持って送り出したメンバーがピッチに立った。(U20日本代表ドイツ遠征メンバーに選ばれた)MF神谷優太やDF杉岡大暉がいない方が、チームが強くなることがよく分かったので、あいつらが帰ってきても、しばらく干そうと思います(苦笑い)

 -MF高山薫が途中交代した。ゲームプランは狂っただろうが、どう転換したか?

 検査しなければ、分からないけれど、そんなにひどくはないと思っていますけど。あいつが×と言うんだから、もう無理なんだろうなと思っていたんで。ただ、そういうアクシデント含めて、チーム全体でシーズン通して戦っていかないといけない。主将がいなくなって後半、声をかける人がいなくなったというので、ちょっとパニックになりましたけど、(菊地)俊介にやらせました。そこは、ちょっと忘れていました…僕も。主将…声をかける人いないじゃんと。準備不足でした。別に、もしかしたら薫を、誰も主将と思っていないかもしれないし…対して影響はなかったのかなと思います(苦笑い)

 -いい試合になったのは、戦う姿勢があったから?

 う~ん…俺がちょっと話したのは、3ラインの波が必要だというのと、我々の選手って、30代が8人いて、20代から30代の中間層もいて、それ以下もいて3つに分かれている。出ていないツボ(DF坪井慶介)とかケガした(MF藤田)征也とか、自分が出ていない時も、仲間にポジティブな声をかけるし、練習で絶対に手を抜かないし、30代だから休ませたことはないんだけど、そのことはミドルエイジのヤツは学んでいかなければいけないし、その下のヤツらは、お前らは10~15年したら、そういう人の気持ちが分かると思うんだけど、今、分からないからって、自分たちの好きなことばかりしていちゃダメよって言いました。3つの世代のつながりが、ゲームに落ちたと思います。代表でも、(MF)今野が34歳で、ああいうふうにゴールを決めた。とかくこの世界は、ベテランとか若いというだけでチヤホヤされて、何もしていないのに点を取っただけで、皆さんはポジティブに書かれることがありますけど、35歳でも15歳でも、考え方を変えれば成長できるわけであって。僕の身体能力は、良くならないと自分でも確信しましたけど頭の中は何歳でも変われる。刺激や考え方がチーム全体につながったんで、今日はチーム全体の勝利だと思います。

 -ハーフタイムコメントの「リスクマネジメント」という言葉で、大人の湘南スタイルに変わるのかなと

 大人とは思っていないですけど。物事を捉えて考える時、例えばボールサイドにプレッシャーかけたら、逆が空く。じゃあ、そういう分析があるから行かない…本当に、いたちごっこ。最後は選手に判断の責任を預けられるかが大事。そこを、どう選手が考え、乗り越えていくかで本当の成長があるわけで。湘南スタイルは、何でもかんでも縦にいって、それでゴール、ボールを取ると言われているけれど、そこをベースにしながらも、アウトサイドの選手が真ん中でボールを奪った場面が何回もあったと思う。そこのリスクを冒していかないと、サイドチェンジされるから待って下がっちゃうと、サッカーそのものの魅力、テンポが見られない。今行く、行かない…ここだというところの判断が今までより速かった。今まで出たヤツと今日、初めて出たヤツが普段、練習している温度を下げていないことが、僕にとって1番うれしいこと。誰のおかげで勝ったとかじゃない。悪いところを消して、あまりある良さというのが、彼らのいいところだと思っているので、これからもピッチで見えるよう働きかけていきたい。

 -バランスをどう取る?

 バランスを取れと言う言葉が、本当にいいことか? バランスを取ってプレーしろという指示は恐ろしく難しい。バランスを取りなさいと先に教えて指導すると、指導者のバランスが選手のバランスになる。サッカー的に言うと、監督の基準が全部、選手の基準になっちゃう。監督が考えている以上のことを、選手が見せられないこととイコールだと思っている。選手の実際、感じているところは違うんじゃないか、というのを我々は本当は受け止めなければいけない。僕はバランスという言葉を、あまり使ったことがない。僕の基準が選手の基準になっているようじゃ、もうそれはダメだなと、J1の時に散々、思ったので、そこを変えて、自立、自己判断、選手同士の空気が、チームの選択の基準を決められるようにしたいと思っています。バランスという言葉が本当に必要か…迷うけれど、僕は使わないと思います。

 曹監督は、足を引きずりながら会見場を後にした。【村上幸将】