元清水杉山浩太氏、愛するクラブのために新たな1歩

現役生活を振り返る杉山氏

 選手から、クラブスタッフへ-。元清水エスパルスMF杉山浩太氏(33)が、第2の人生の1歩を踏み出す。昨季限りで現役を引退し、今季からはピッチではなく、選手を支える側に回る。このたび日刊スポーツのインタビューに応じ、清水への思い、そして後輩への思いを熱く語った。

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 15年間にわたる現役生活を終えた杉山氏は、晴れ晴れとした表情だった。「そこそこ、幸せな終わり方だったと思います」。明るい笑顔を見せた。小学生で清水のサッカースクールに加入してから、清水で現役を引退するまで23年間。まさに『サッカー=清水エスパルス』の人生だった。

 「みんな良い時は清水が好きと言うし、高い給料をもらって、調子がよければ最高ですよね。じゃあ給料が10分の1になっても清水のためにやるかと言われたら、やらないかもしれない。でも俺は、それでもやるタイプ。今まで、そうやってきたと思うから。実際には『エスパ愛』なんて分からないですよ。でも俺はもしかしたら、他の人より若干『エスパルスが好き』と言えるかもしれないです」

 一昨年の11月、当時J2だった清水が2年ぶりのJ1復帰を決めた際に、昨季限りでの現役引退を心に決めた。昨年の夏にクラブへ意向を伝え、10月に正式に発表。本来はシーズン終了間際に発表する予定だったが、J1残留争いに巻き込まれているチーム状況で、早めの発表に踏み切った。その後、選手ミーティングでも発言する機会が増えた。

 「引退が決まっていると、みんなが言うことを聞いてくれる。話したのは、精神面のこと。たとえば失点した後、『1回、忘れよう』と全員で声をかけるタイミングを作るとか」

 チームは最終節まで残留争いをし、勝利でシーズンを終えた。周囲からは「良かったね」と言われたが、クラブの歴史を知る杉山氏は全く納得していなかった。

 「残留したのは、みんなの頑張りがあったからだけど、胸を張れる成績ではない。(良い)終わり方でそういうイメージが付いているけど、決して満足してはいけない。成績としてはダメ。みなさんに申し訳ないなと思います」

 11月26日、ホーム最終戦の新潟戦で引退セレモニーが行われた。あいさつは全て自分で考え、暗記した。最後までしっかり言い終えたが、グラウンドを1周した際に涙がこぼれた。「浩太、ありがとう!」。たくさんのサポーターの声が、耳に届いていた。たくさんの思い出が、よみがえった。

 「話しているときは、全然大丈夫でした。でも(グラウンドを)回りながら、ピッチに近い席だと特に、試合の時にこの人たちいたな、この人の前で(試合中に)水を飲んでたと思い出した。自分を見てくれていたんだなと思いました」

 2010年に期限付き移籍していた柏から復帰後、清水ユース出身の選手で集まる「ユース会」を始めた。年に1~2回の食事会に加え、下部組織への恩返しの意味を込めてゴールを贈呈するなどの活動も行った。今季のチームにもユースから昇格した新加入3人に加えてFW北川航也(21)、MF石毛秀樹(23)ら8人が所属する。

 「ユースを特別扱いはしていないですよ。でも、アドバイスしたりする環境作りは大事かなと思った。他県や他のチームから来た選手も頑張るけど、その中で1本、下部組織出身者の選手が核にいるとうれしいなとは思いますよね」

 2月からは、会社員として第2の人生のスタートを切る。33歳。サッカー選手としてはベテランだったが、社会人としてはルーキーになる。

 「今の気持ちは18歳とか、22歳の人たちとあんまり変わらないと思います。新人としてワクワクしますし、偉くなりたい気持ちもあります。不安もありますけど、『やりたいことやるんでしょ?』という気持ちを、自分の中に詰め込んでいます」

 プロ選手としては、持病であるぜんそくと向き合ってプレーし、主将としてチームをまとめるなど多くの壁を乗り越えてきた。この先の困難にも、真正面から向き合うつもりだ。「つらいだろうし、大変だろうなとは思う。でも静岡、清水、エスパルスのために働けるんだったらうれしい」。地元、そして愛するクラブのために、新たな1歩を踏み出す。【取材構成=保坂恭子】