仙台渡辺監督5年目集大成、5位以内&カップ戦Vだ

1月、沖縄キャンプで、声を張り上げて指示をだす仙台渡辺監督。オフにスペインへサッカー留学し、より情熱的になって帰ってきた

 ベガルタ仙台の渡辺晋監督(44)が、就任5年目の集大成を飾る。昨季はJ1最下位レベルの人件費をやりくりし、有能な若手選手を登用しながら、核となるベテラン選手との融合を図り、チームを7年連続J1残留へと導いた。今季は2年目となった3-4-3システムを成熟させた「いい立ち位置をとる」サッカーで、目標に掲げたリーグ戦5位以内、カップ戦ファイナリストに挑む。【取材・構成=下田雄一】

 ◆質問1 手応え

 3-4-3システムに移行して2年目。チーム戦術的にも進化の途上にある。昨年と比べて今キャンプでの手応えは?

 渡辺監督 比べものにならないです。昨年はチーム全体として理解不足もあり未熟さがあったが、今年は次のステップに向かう過程でレベルを上げていく作業ができた。そういう意味で雲泥の差です。16年シーズンで、攻撃のところで変化をつけられるようになった。4-4-2で戦っている中で僕のやり方で言えば、11人の立ち位置をいろいろずらしてやってきた。自分なりに整理したら3-4-3でもいいかな、と。海外に行った経験とか今いる選手に合っているのかなと感じて、スッと落ちてきて、チャレンジしてみようとなった。今はチームが成長していく発展途上です。

 ◆質問2 スタイル

 ずばりベガルタスタイルとは?

 渡辺監督 極論を言うと相手陣のハーフコートで90分間、試合をやり続けること。ハーフコートゲームは僕の究極の理想です。ボールを取られたら取り返すを繰り返す。ただ、理想とは違うところで勝負が決まったりする。それができないところの対処の仕方が大切になってきます。攻撃的といっても仙台って守備のところは外してないよね、戦う姿勢はぶれてないよねって、試合を見て議論を巻き起こしてもらいたい。

 ◆質問3 立ち位置

 戦術的なキーワードとしては「いい立ち位置をとる」というものがある。ベガルタスタイルの基本戦術である「立ち位置」について。

 渡辺監督 1個のボールに対して11人が適正な位置にいないとボールは動かないし前進できない。だれか1人がサボったり間違った場所にいたり、人が重なっちゃったりしたらボールを運べないんです。相手のゴールを陥れることを考えれば、相手の最終ラインの背後を破ること。それができないとき、いい立ち位置をとって相手をずらしていこうぜっていうのが我々のサッカーです。当初はボールを動かすことでいっぱいいっぱいで、苦し紛れのロングボールを蹴ったりカウンターを食らったりしたが、意図的な長いパスが増えてきた。縦パスを入れる場所を10メートル前進させることを徹底してセカンドボールを拾えるようになった。待ち受ける人間がどういうふうに走れば効果的なのか約束事がより明確になってきた。

 ◆質問4 得点力

 昨季はオープンプレーからのクロス成功数がリーグトップ。今季はそれを得点に結びつけたい。

 渡辺監督 昨年までは相手が嫌がるところまで進入できずにクロスを上げていることが多かったので、そこは改善点かなと思う。両ウイングバックを起点とした攻撃は仙台のひとつの形。GKとDFの間にアーリークロスを上げれば相手の脅威となる。今は、ボールが流れても逆サイドのウイングバックが上がってセカンドボールを拾えるようになった。

 ◆質問5 複数ポジション

 3月31日のホーム長崎戦から5月20日のアウェー鹿島戦まで中3日の15連戦となる。W杯イヤーの過密日程を乗り切るために、選手に複数ポジションを要求する「ポリバレント」を打ち出した。

 渡辺監督 うちのスタイルが明確になったからこそポリバレントに取り組める。今までもアクシデントで要求したことはある。今回は連戦を見据え、いろいろな組み合わせで選手が関わる。常にフレッシュでパワーがある状態で試合に臨みたいので。みんなが仙台のスタイルを思い描けているからこそできることで選手にとっても強みとなる。一方で富田晋伍(31)はボランチ、大岩一貴(28)は3バックの真ん中、石原直樹(33)はワントップ、センターラインはしっかりと軸をぶらさずに戦っていく。

 ◆質問6 ビジョン

 昨季はチームの中心選手であるMF三田啓貴(27)が神戸に移籍。J1最下位レベルの人件費でいかにJ1定着を成し遂げるか、今後のビジョンは?

 渡辺監督 まずスタイルをしっかりと確立すること。選手、同業者に仙台のサッカーって面白そうだなと思わせること。あそこにいったら成長できそうだなって思わせること。このクラブの経営規模や予算は僕なりに承知しているが、その中でやってやろうと思っている。トップ5に入ってやろうと本気で思っている。僕らの仕事は勝つことが一番ですが、選手を成長させることも大切。そういう環境があると、選手も自然と集まってくる。昨年はハモン(ロペス)が柏に移籍したが違約金を置いていった。いくら置いてったって公にした方がいいと思う。彼が来たときいくらだったの? そういう選手に育てたということはビジネスであり我々のステータス。胸を張っていいと思う。タマ(三田)だって、東京でくすぶっていた人間が、仙台に来てあれだけ成長できた。彼もしっかり違約金を置いていって、彼が手にするサラリーがアップすればプロとしてそれはいいこと。彼が「成長させてもらいました」っていってくれた。そういうことは隠す必要がない。うちはそういうクラブ。彼が置いていったお金で赤字の穴埋めできましたでもいい。こんな選手が取れましたでもいい。生え抜きの選手にはコーチ時代から「出て行くときは移籍金を置いていけ」と言い続けてきた。選手がそういう意識を持ってやってくれることが帰属意識につながったりクラブ愛につながってくる。毎回選手を引き抜かれて何やっているんだと思われるかもしれない。だったら選手を引き留められるようなスポンサーを連れてくるとか、フロントが真剣に考えればいいこと。

 ◆質問7 開幕戦

 開幕戦でここを見てくれと言えるものは?

 渡辺監督 選手の躍動する姿です。スタイルがどうであれ、取り組んでいる選手が楽しい、うまくなると思っているからこそ躍動できる。昨年もトップ5を掲げていたが、どれだけのリアリティーを持って戦っていたのか。ホームで勝ち続け、リーグ戦トップ5は何としても達成させたい。