花巻東に柱谷哲二氏TA就任 全国総体や選手権狙う

全国舞台に導く意欲を示した花巻東の柱谷テクニカルアドバイザー(撮影・鎌田直秀)

 サッカー元日本代表で主将も務めた柱谷哲二氏(53)が、今春から花巻東(岩手)のテクニカルアドバイザー(TA)に就任した。Jリーグ各カテゴリーの監督や、母校の国士舘大でコーチ経験はあるが、高校生の指導は初挑戦。走ることを基本ベースに強化を図って、全国総体や選手権初出場を狙うだけでなく、人間形成にも重点を置く。指導開始から数カ月、思いに迫った。【取材・構成=鎌田直秀】

 柱谷TAが「闘将」と呼ばれた熱意を、今度は高校生に注入する。花巻東での指導を3月4日に開始。初対面の選手に問いかけたのは「全国大会に行きたいの? 行きたくないの? それだけ教えて」。即答した「行きたい」の言葉に、「やるのはオレじゃないからね、みんなだよ。よろしくね」。意思統一は完了した。

 柱谷TA 土地柄なのか、引っ込み思案で積極性がないかなと最初は少し感じた。だけど、素直で良い子が集まっている。技術だってすばらしい。足りないのは、花巻東のベースをつくること。僕の役目は、まずはそこ。サッカーに関しては、走って、走って。走ろうって言っています。走る体力の基盤がないと、技術や考える力もビルドアップできない。

 自身の経験も選手に伝えた。京都商(現京都学園)1年時の総体予選。小学生時代からテクニシャンで有名だったが、監督から「お前はめちゃくちゃうまいけれど走れない」と指摘された。悔しさから練習後に毎日、午後9時まで真っ暗の中、自宅近くの山2つを越えるランニングを課した。走る体力を身につけると、余裕もできて能力も上がることを実感。日本代表にまで評価を上げた。レベルは違うにせよ、J1でもJFLでも同じであることも強調した。

 精神面のベースは自分たちで考える力だ。就任後、試合の反省点を集約したビデオ作成は中止した。編集する前の映像を、選手だけで見る時間を作った。反省はするが、負けた試合でこそ長所を見つけさせた。互いで褒め合うことも求めた。J2水戸時代にも実践した“ビデオ鑑賞タイム”。選手からリポートを提出させ、白滝慶監督(30)と共有。選手の特徴把握や、練習内容の構成にも還元している。

 柱谷TA ピッチの上では自分たちで解決できないとダメ。監督からタイムはかけられないからね。欠点を見つけるのは簡単。長所は意外と難しい。両方をみんなが把握して、コミュニケーションを取り、ディスカッションする。自己分析能力が大事。本田圭佑(パチューカ)が11人いても勝てないし、槙野智章(浦和)が11人いたら、うるさくて仕方ない。メッシ(バルセロナ)だってセンターバックはできない。お互いの弱点は補い、長所を引き出す。ラモス(瑠偉)さんだって「左足にもらっても1タッチできないから右にくれ」って言っていたし、(木村)和司さんなんか「コンタクトが弱いから、ディフェンスから少し離れたところにくれ」って言っていたからね。

 長所は走る体力があれば、1試合通じて発揮できる。短所は「苦手を普通にしてくれればいい」と伝えた。個人の短所は強いチーム相手には致命傷。瞬間的なスピードが足りない選手には「タイヤ引けよ」と助言。チーム全体の集中力強化のために、30分間のリフティング朝練も開始。抜き打ちテストも行う。短所の度合いを引き上げる方法も導いている。

 サッカーに臨む姿勢、人間性育成も高校生指導には必要不可欠と考える。汚れたボール。整備されていないグラウンド。この2つに関しても「なんで?」と選手に質問した。

 柱谷TA ボールが汚いということはサッカーへの感謝、リスペクトがないよね。毎日ありがとうの気持ちで磨かないと。グラウンドがガタガタだと、うまくもならないしケガもする。それも考え方のベースだよね。大学にいってもサラリーマンの世界でも通用するもの。絶対に無駄にはならない。

 高校生指導は初めてだが、暁星国際(千葉)TAとしてスタッフ人選などのチームマネジメントを任された経験もある。学校側にはOB会結成を要求した。OBが練習に来て目を光らす。経験も伝える。輪が広がれば、人脈も広がる。佐々木洋監督(42)率いる野球部は「岩手から日本一」と掲げ、県人だけで甲子園初制覇に挑んでいるが、柱谷TAは県内外に視野を広げている。

 柱谷TA 地元の子で勝つのが一番良いことだけれど、県外からの補強も必要だと思う。部員も100人を超える大所帯にしたい。そのためにはコーチの人数が足りない。そこは学校の協力も必要だし、OB会からのボランティア指導もお願いしたい。校長からも「強くしてほしい」って言われているからね。良い人材も全国のOBから「こんな選手いるよ」って情報が入れば理想です。

 選手の闘志は、早くも結果に表れてきた。高校生年代の強化を目的としたインディペンデンスリーグ(iリーグ)岩手1部では、4月14日の開幕戦で4-0と盛岡商2ndに快勝し、第5節は内容が悪くても不来方を3-2で退けた。直近12日の第6節は遠野2ndに0-2と敗れたが、3勝2分け1敗と好発進している。26日には全国総体予選が開幕。初戦となる27日の2回戦で、紫波総合と一関工の勝者と対戦する。

 柱谷TA もちろん、今年に全国総体や選手権に行けることを信じている。たとえ行けなくても、ベースはしっかりと築きたい。うまくて、強くて、速くて、賢くて。それを目指さないと、青森山田みたいにはなれない。山田だって簡単に今の位置に立ったわけではない。10年かかるかもしれない。10年以上はみないと伝統にはならない。将来、選手が大学にどんどん入学して、Jリーグにも入って。それを描いているし、それが僕の夢だね。

 ◆柱谷哲二(はしらたに・てつじ)1964年(昭39)7月15日、京都市生まれ。京都商(現京都学園)を経て、国士舘大進学。87年日産自動車(現J1横浜)入り。Jリーグ創設にともない92年にV川崎(現J2東京V)移籍。93年から3年連続ベストイレブン。JSL97試合出場2得点。Jリーグ183試合13得点。日本代表では93年ドーハの悲劇を主将として経験。日本代表国際Aマッチ72試合6得点。98年引退後、Jリーグでは札幌、東京V、水戸、鳥取、JFLでは八戸で監督を務めた。現役時代は182センチ、70キロ。ポジションはDF、守備的MF。