サッカー「早慶クラシコ」が描く大学スポーツの未来

サッカー早慶クラシコの企画、運営を担う一般社団法人ユニサカの原田圭代表理事(撮影・首藤正徳)

 伝統の早慶サッカー定期戦「早慶クラシコ2018」が7月7日、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で開催される。

 69回目を迎える伝統の大会は、学生主体で大学スポーツ振興に取り組む一般社団法人ユニサカが、昨年に続いて企画、運営を担当。今年は競技場に隣接する広場に『クラシコパーク』を設け、現役学生によるステージイベントのほか、文科系、芸術系サークルなどがブースを出展する。2万人の来場者を目標に掲げるユニサカの原田圭代表理事(慶大4年)に取り組みの意義や、大学スポーツの未来について聞いた。【取材・構成=首藤正徳】

 

 -ユニサカが企画、運営する早慶クラシコは、今年で2年目。昨年は1万4500人の観客が来場しましたが、今年は2万人を目標に掲げています。そのために何か新たな取り組みはありますか。

 原田 昨年と一番違うのが『クラシコパーク』というイベントです。当日の13時から18時まで、ぶっ通しでスタジアムに隣接する広場にステージやブースで、ストリート、アート、社会問題などの分野で活躍している早慶の学生にパフォーマンスを披露してもらいます。ここにくると早慶の大学の今を形作るあらゆるカルチャーを知ることができると思います。

 -『早慶クラシコ』という人気コンテンツを活用して、早慶の文化の発信源にしようということですね。

 原田 早慶の学生が約7000人、その他の観客を合わせれば、1万5000人もの観客が集まるイベントは年間を通じても他になかなかありません。サッカーの試合で熱狂が生まれることもスポーツの価値ではありますが、もっと多くの学生に早慶クラシコを利用してもらい、大学の文化そのものを発信できたらいいと思いました。大学スポーツの価値を競技に携わる部内の人間だけにとどめるのではなく、本来スポーツとは程遠いコミュニティーにいる学生や、より多くの発信の機会を求める学生、さらに地域の人たちも巻き込んで、広く活用してもらう。そうすることで新しい交流が生まれて、大学という枠を超えてコミュニティーが広がっていくと考えています。

 -『早慶クラシコ』で新しい大学スポーツの価値をつくりだすということですね。

 原田 まさにその通りです。日本の大学の部活の多くは外のコミュニティーとの繋がりが薄く、一人称、または相手を含めた二人称で活動が終わっています。大学でスポーツをする意義や価値が、4年間を通じていかに自分が成長していくかということだけになっているケースが多くて、すごく内向きで、その先に定義されるべきクラブの存在意義や他のコミュニティーにもたらしている価値が見えないし、そこまで回っていない。試合を応援にくるのもOBや保護者くらいで、選手たちも応援されないことに慣れてしまっています。部活動以外のコミュニティーとの関わりも極めて薄いので、どうしても自己完結しがちになる。何のために、部活があるのか、というとそれは当事者が日々の部活動を通じて成長する、とか結果を残す、とかそういう答えになるのがすごくもったいない。もっと大学スポーツが他の学生やOB、地域の人を含めていろんな人にとって必要とされる存在にならないと、存在意義がないと思います。

 -日大アメフト部の反則タックル問題も、体育会の内向きな体質が根底にあると言われています。

 原田 その意味でも日大アメフト部だけでなく、日本の他の部でも起きる可能性があったと思います。いまだに世間ではあり得ないような常識が、伝統に基づいた根拠のない価値観に支配されている部活も多い。部活動が誰のものなのかという認識が曖昧なので、気がつけば部のガバナンスは消え去り、なぜか監督に権力が集中しているケースも珍しくありません。そんな閉じられたコミュニティーで生活している選手たちは、他の学生を含めた部外の人たちとの接点がほとんどないため、さらなる悪循環に陥ります。日大アメフト部の問題はまさにその象徴的な事例だとも言えます。

 -そもそもユニサカは、そんな体育会の古い体質に風穴をあけて、試合に多くの観客を集めて、大学スポーツを人気コンテンツに成長させようと学生が中心となって立ち上げた団体です。

 原田 ですから日大アメフト部の問題を受けて、部活という閉ざされた世界で、声を上げることができない学生のために、新たなプロジェクトを立ち上げる準備をしています。今回の事件もそうですが、実績のある部活の指導者が学校の権力者というケースはよくあります。日本は、部活動以外にスポーツをする選択肢が非常に少ないので自分のキャリアを人質に取られるとどうしても泣き寝入りするしかありません。自分がどんなに違和感を感じていても、指導者を頂点としたピラミッドはそう簡単には崩れませんし、試合に出たいから価値観を合わせていくしかないのが現状だと思います。やはり、被害者側が声を上げるのはリスクがともなうので、学生主体でこの問題にチャレンジしていかなければならないと思っています。

 -具体的にはどんな活動をするのですか。

 原田 米国の女優たちがハリウッドのセクハラ被害を告発した「MeToo」運動や、被害の撲滅を訴える「Time's Up」運動がイメージしやすいと思います。学生たちが、第三者の立場で一緒に声を上げて「ノー」と訴えていく。その活動のプラットフォームになれればいいと考えています。スポーツ法などを専門にしている弁護士の力も借りながら、SNSなどを積極的に活用して、基本的には学生が前面に立っていきたいと思っています。日本の部活動は勝利至上主義がまん延し、勝てば全てが許される、手段が目的を正当化する傾向があると思っています。でも、違和感を感じること、間違っていると感じたことをしっかりと伝えることは必要で、その空気感を作っていきたいと思っています。

 -そのためのコミュニティーを広げるという意味でも、『早慶クラシコ』での原田さんたちユニサカの取り組みは重要ですね。

 原田 プロ野球は野球だけ、Jリーグはサッカーしかありません。ですが、『早慶クラシコ』はサッカーのチームだけでなく、さまざまなチームがあり大学スポーツが大学にバラバラに存在するチームの架け橋になり得る面白いチャレンジだと思っています。いずれは大学のコミュニティーも超えて、地域のお祭りの1つとして『クラシコパーク』が存在するようになればと思っています。いろんな人に大学スポーツの作り手になってもらい、大勢の人に参加していただく。そして近い将来、大学スポーツをいろんな人たちが関わりを持てるプラットフォームにしたい。今はその先駆けをユニサカがつくるんだという意識でやっています。『早慶クラシコ』がそのモデルケースになれればいいと思っています。

★『早慶クラシコ2018』

 日時 7月7日、女子部午後3時30分、男子部午後6時30分キックオフ

 会場 等々力陸上競技場

 テレビ放送 スカパー!で午後6時から9時まで無料放送で3時間生中継(予定)

 入場料 指定席2000円(小中高生は1000円)、自由席は一律900円(小中高生は無料)

 

★原田圭(はらだけい)

一般社団法人ユニサカ代表理事。慶應義塾大学体育会ソッカー部所属。

Twitter@keiharad