開幕イニエスタ劇場「素晴らしい物語の第1歩だ」

後半途中からピッチに立った神戸MFイニエスタは、湘南MF杉岡と競り合う(撮影・清水貴仁)

<明治安田生命J1:神戸0-3湘南>◇第17節◇22日◇ノエスタ

 世界一流のプレーで魅了した。ヴィッセル神戸に推定年俸32億5000万円のJリーグ史上最高額で加入したスペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(34)が、交代出場でJデビューを飾った。湘南ベルマーレに2点リードされた後半14分に登場。0-3で敗れたが、スルーパスでチャンスを演出するなど世界の技で観客を沸かせた。

 大きなどよめきに包まれ、背番号8がピッチに登場した。0-2とリードされた後半14分。劣勢から激変を求めて、イニエスタが投入された。「温かく迎えられた。チームが負けたのは残念だが、個人としてはデビューできた喜ばしい日だ」。ノエスタ歴代3位の観客2万6416人が、待ちわびた時間だった。

 18日に来日し、2日間しかチーム練習に加わっていない。吉田監督と話し合い、30分限定の出場だった。「トップの状態には到達していない」と本人も認める状況だったが、それでもプレーで魅了した。

 「魔法使い」「手品師」「世界遺産」。数々の称賛で表現される技術。柔らかなボールタッチから的確にDFの裏に出すスルーパスで何度もチャンスを演出。後半44分、CKから左足のダイレクトボレーで初シュートも放った。

 ただ、吉田監督が「周りの選手が分かってくれば、いい反応も出てくる」と話した通り、イニエスタのプレーに反応が遅れる場面もあった。イニエスタも「適応するために、時間をかける必要があると思う」と言い、今後を楽しみにした。

 その可能性は20日の初練習時に示していた。DF渡部は「4~5割程度だと思うけど、日本にいるレベルじゃない。ボールタッチ、パスの質の高さを感じた」。その一方で「一緒に写真を撮ろう」と話しかけ、積極的にチームにとけ込む姿勢も見せた。推定年俸32億5000万円とは思えない近い距離感。「これから私も練習を続けて、状態を上げていって、いいプレーをしたい」と前向きだ。

 J初陣を白星で飾ることはできなかった。ただバルセロナ、スペイン代表に数々の栄光をもたらしたプレーは、可能性と期待を残した。「これから始まる素晴らしい物語の第1歩だ」。日本でスタートしたイニエスタの冒険。「この挑戦にワクワクしている。うまくいくようにしていきたい」と誓った。【実藤健一】

 ◆アンドレス・イニエスタ 1984年5月11日、スペイン・アルバセテ生まれ。12歳からバルセロナの下部組織に入り02年プロデビュー。今季はリーグ優勝とスペイン国王杯4連覇など、タイトル通算32個。ワールドカップは06年から4大会連続出場。ロシア大会は決勝トーナメント1回戦敗退も、10年南アフリカ大会のオランダとの決勝で、初優勝に導く延長での決勝点。08、12年欧州選手権優勝。Aマッチ通算128試合13得点。171センチ、68キロ。